酒は人を結び、まちを元気にする。酒場案内人の塩見なゆさんが、酒をテーマににぎわう各地のまちを訪ねます。今回は宮城県南三陸町。2011年3月11日に発生した東日本大震災で甚大な津波被害を受けた地域です。山間部の耕作放棄地にぶどう100本を植え、徐々にぶどう畑を広げ、今年ついにワイナリーをオープン。ゼロから始めたワインづくりを取材しました。
つくづくお酒は人と人をつなぐ「縁」になる飲み物だと思います。初めて訪ねたまちでも、地域に根付いた老舗の酒場で地酒と地元の肴で一献傾けていれば、自然とお店の方や常連さんとの会話が始まります。
酒場で居合わせた人たちと乾杯をして土地の話題で盛り上がったまちには、ガイドブックに載っている史跡や観光スポットを巡るだけの観光よりも何倍も愛着を感じます。楽しく飲んだ翌日、お店の方に魚市場を案内してもらったこともあります。あまりに好きになりすぎて、もう一泊してしまったことだってあります。こうして全国津々浦々でたくさんの思い出ができました。
宮城県の太平洋側に位置する南三陸町でも、そんな楽しい乾杯をしたことがあります。南三陸町の志津川という地名は、みなさんも東日本大震災のニュースで耳にしたことがあるはずです。
志津川のまちは、複雑に入り組む海岸線に囲まれた志津川湾に沿って広がる、歴史ある漁師町です。それだけに津波被害も大きかった地域ですが、豊富な海産物と、入り江の風光明媚な眺めという観光資源の両輪で、まちににぎわいを取り戻す取り組みが進んでいます。
志津川の海産物といえば、なんといってもカキです。海からすぐに立ち上がる山々の豊富な養分を含んだ水は志津川湾に流れ込み、カキを大きく育みます。
2017年、カキの養殖を取材するため南三陸町を訪れ、漁船に乗って水揚げを間近で見せてもらう機会がありました。そのまま南三陸町で一泊したのですが、カキづくしの料理に大変感動したことを覚えています。
そのとき飲んだお酒はもちろん日本酒なのですが、せっかくのカキの名産地ですから、カキに合うワインがあればもっと多くの楽しみ方が生まれるのにな、と思ったものでした。