横丁をたどって歩き回れるまち

 八戸の中心市街地は多くの商業施設やホテルはもちろん、市役所やミュージアムなども集結し、市内観光の多くは徒歩で移動できます。そんなまちの中を横丁が縫うように伸びているので、回遊が容易で、人々が歩きやすい一種のコンパクトシティーになっています。

まちの中央付近に位置する八戸ポータルミュージアム(愛称:はっち)。横丁のゆるキャラ「よっぱらいほやじ」が鎮座する(写真:塩見なゆ)

 八戸市は第3期八戸市中心市街地活性化基本計画の中で横丁活性化事業を策定し、横丁をまちの主要コンテンツとして育てています。市によると、歩行者通行量は中心市街(平日・休日、8地点の合計)で2013年に5万4032人だったのが、2018年には6万1726人に増加。みろく横丁付近の花小路周辺(平日・休日の合計)では、2015年の5042人が2019年に9128人となるなど、まちを行き交う人の数が確実に増えています。

 また、中心街では大型の公共施設やホテル、マンション、ビルの建設なども相次ぎ、2018年には公示地価が25年ぶりに上昇しました。

「横丁は車が来ないのがいい」

八戸横丁連合協議会事務局長の月館裕二さん(左)は老舗だけでなく、若者が新しく開いたお店も積極的に訪れる。奥は著者の塩見なゆ(写真:ひとまち結び編集部)

 地方都市の多くは車社会化が進み、古くからの中心街は駐車場や道路事情などの問題から空洞化が問題となっていますが、「横丁は車が入れません。人が歩けるのがいいのです。それは強みでもあります」と月舘さんは説明します。横丁では、地元の人も観光客も、みなさん楽しそうにいろいろな看板や赤ちょうちんを眺めながら歩いていました。

1軒目に訪れたお店は、たぬき小路にある「キッチン ジャポナーゼ」。マスターの田中健一郎さん(左)はUターンで八戸に戻り横丁に店を構えた(写真:ひとまち結び編集部)

 月舘さんの案内で伺った1軒目は「キッチン ジャポナーゼ」。マスターの田中健一郎さんは青森出身。東京で飲食の経験を積み、Uターンで八戸に戻り横丁に店を構えました。

 「八戸は横丁の活性化などに伴い、飲食店を開くのに魅力的なまちになってきた。まちづくりの中心で活躍している地元のベテランのみなさんが気さくに私たち若い人に接してくれて、しっかり応援してくれるから挑戦しやすい」と田中さん。

 常連のお客さんも「八戸には、都会で身につけたスキルを駆使して攻めのUターンをする人が増えている」と言います。横丁の客層はさまざまで若い人の姿も多く見かけ、まちに元気が感じられます。

 キッチン ジャポナーゼでは、鶏の唐揚げや田酒の酒粕漬けをおつまみに、大都市の横丁顔負けのカクテルやワインをいただきました。

 横丁はお客さん同士、そしてお店の人との距離が近く、カウンター席で飲んでいればあっという間に会話が生まれます。人情を感じるこの距離はまた、横丁でつながったお店同士の距離の近さにもあります。「次は○○の店に行ってくるよ!」と、軽く挨拶をして1軒目を後にして、2軒目でも「○○の店で飲んできてさ」という話から始まる様子は、まるで横丁全体が一つの巨大な酒場のようです。

2軒目は老舗の小料理店、長横町れんさ街の「酒食や 山き」。東北美人の女将さん(左)が笑顔で迎えてくれます(写真:ひとまち結び編集部)

 新幹線の開業前から続く酒場も多くあります。横丁の一つ「長横町れんさ街」にある「酒食や 山き」は創業から40年ほどになる老舗です。東北美人の女将さん、山道圭子さんに迎えられて、ほっと落ち着く空間です。飴色に輝く分厚いカウンターの上には、大皿に盛られた八戸の魚介類や山菜などの郷土料理が並び、どれもがお酒を誘います。

 お客さんの多くは、はしご酒でふらりと立ち寄った風情。常連さんも初めての人も一緒になって、女将さんを中心に楽しい酒場話で盛り上がっていました。地元の人と観光で訪れた人との交流も見られるのは、こういうカウンターならではの光景です。

 地元産のいわしの煮付けをおつまみにして八戸酒造の「陸奥八仙」をゆっくりと口に運べば、地のもの同士の組み合わせがたまらないひとときです。

 八戸では、横丁という昔からの資産を大切に活かしながら、年齢や立場を超えて、酒場の新しい楽しみ方をみんなで作っていこうという姿勢が感じられます。この力強い歩みこそが一番のおつまみなのだと感じる夜でした。ごちそうさま。

著者 塩見なゆ
酒場案内人。1984年、東京都杉並区荻窪生まれ。新宿ゴールデン街に通った作家の両親を持つ。幼いころより中央線沿線の飲み屋へ連れて行かれ、物書きの大人と瓶ビールに囲まれて成長する。会社員として広報・宣伝畑を経て独立。趣味だった飲み屋巡りを本業とし、飲食専門のライターとなる。酒場に恋して年間2,000軒を巡る。