ビール好きの憧れのまち、上富良野

 サッポロビールは、現在、ビールの2大原料である大麦とホップを育種・研究している日本で唯一のビールメーカーです。

 ホップの研究は、1877年に開設された官営葎草(りつそう)園を起源とし、現在まで脈々と続けられてきました。1925年には上富良野町にサッポロビールの北海道原料研究センターが設立されます。

 ラベンダー畑の美しい景観で知られる富良野。旭川からJR富良野線で1時間くらい揺られて、人口約1万人の上富良野町にやってきました。上富良野の北海道原料研究センターは、ビール好きの筆者としても憧れのまちです。この地で生産された取れたてのホップでつくる「サッポロ クラシック 富良野VINTAGE」は、北海道内限定発売ながら全国にファンがいるヒット商品で、毎年ホップ収穫後となる秋の発売を楽しみにしています。

一世紀近く使われているサッポロビール北海道原料研究センターの建物と、センター長の鯉江弘一朗さん(写真:塩見なゆ)
一世紀近く使われているサッポロビール北海道原料研究センターの建物と、センター長の鯉江弘一朗さん(写真:塩見なゆ)
[画像のクリックで拡大表示]

 取材に応じてくれたサッポロビールの鯉江弘一朗さんは、ホップ研究一筋の研究者。さっそく鯉江さんの案内で、ホップ畑に向かいます。

 「上富良野では大正時代からホップが生産されており、かつては100軒を超えるホップ農家がありました。現在は残念ながら自社のホップ畑以外では、ホップ農家は4軒まで減ってしまいました。ビールの消費者がおいしいと感じることはもちろん、生産者にとっても魅力的なホップの新品種を開発して、上富良野のホップづくりに貢献していきたいです」(鯉江さん)

 世界的に有名な日本生まれのホップ「ソラチエース」は、ここ上富良野で1984年に誕生しました。ソラチエースはスギやヒノキ、柑橘系の香りが非常に強く個性的なホップです。

 「開発当時、サッポロビールではサッポロラガー(赤星)やサッポロ生ビール(黒ラベル)などに使用する、香りの個性を抑え気味のホップが主流で、ソラチエースは自社のビールの原料として使用されることはありませんでした」と鯉江さんは説明します。

 誕⽣してから10年後、ソラチエースは海外に渡ります。2000年代に入ると、クラフトビールブームが起きていた欧⽶で評判が広がり始めました。その当時、鯉江さんはサッポロビール用のホップを生産する世界中の農家に訪問し、生産状況などを確認するという仕事をしていました。ドイツを訪れた際、現地のホップ関係者から「日本のソラチエースを売ってくれないか」と言われたそうです。

2020年に収穫されたソラチエース。柑橘系の香りがふんわり広がる(写真:塩見なゆ)
2020年に収穫されたソラチエース。柑橘系の香りがふんわり広がる(写真:塩見なゆ)
[画像のクリックで拡大表示]

 そうした状況を受けて、やがて鯉江さんは「国内でもソラチエースを使ったビールをつくりたい」と考えるようになりました。製品化に向けたホップの生産を開始し、2016年に限定商品として製品化。2019年には通年商品で「サッポロSORACHI1984」を発売しました。ただ、まだ原料比率の多くがアメリカ産ソラチエースであり、上富良野産ホップの使用比率は少なく、夢は国内産ソラチエースの生産量の拡大です。

 ソラチエースを品種改良して誕生したホップ「フラノスペシャル」は「サッポロ クラシック 富良野VINTAGE」に、上富良野で生まれたホップ「ふらのほのか」は生産者の似顔絵入りのパッケージで限定発売するなど、特徴的で生産者のモチベーションにもつながる商品を次々と発売しています。

 クラフトビールブームも追い風に、「ホップの町・上富良野」は復活に向け変化を続けています。