酒は人を結び、まちを元気にする。酒場案内人の塩見なゆさんが、酒をテーマににぎわう各地のまちを訪ねます。今回は北九州の角打ち。高度経済成長期の労働者が時間に関係なく手軽にお酒を飲めるように生み出されました。時代が移り変わり角打ちは大幅に減少したものの、近年、女性や若い人を中心に再び注目されています。

 角打ちという言葉をご存知でしょうか。

 「広辞苑 第七版」(2018年1月発行)に初めて角打ちという言葉が掲載され、「酒を枡(ます)で飲むこと。また、酒屋で買った酒をその店内で飲むこと」とあります。「かくうち」と呼ぶことが多いようです。

 飲み歩きを趣味とする人々の間では角打ちという言葉は一般的に使われています。角打ちで飲む魅力の一つとして挙げられるのは、酒屋で直接お酒を飲むので、店頭小売価格と同様かそれに近い手頃な予算で楽しめることです。

北九州市小倉北区紺屋町にある1938年(昭和13年)創業の「平尾酒店」(写真:塩見なゆ)
平尾酒店の角打ちの価格表(写真:塩見なゆ)

 北は北海道から南は沖縄まで、日本全国に角打ちは存在します。「もっきり」や「たちのみ」など各地に呼び名がありますが、今では全国的に酒屋で飲むことを角打ちと呼ぶようになりました。角打ちという言葉のルーツは北部九州の方言と言われています。

 北九州には角打ちの軒数が非常に多く、居酒屋へ飲みに行くような感覚で人々が日常的に利用しています。また、北九州市は観光PRの一環として角打ちを取り上げており、まちを楽しむコンテンツとしても広まってきています。

 角打ちという呼び名の発祥の地として、盛り上がりを見せている北九州の角打ち文化の魅力について、地元で情報発信する愛好家の集まり「北九州角打ち文化研究会(角文研)」のメンバーにお話を伺いました。

北九州角打ち文化研究会は、酒屋の売り場に置かれたテーブルでお酒を飲みながら会合する。中央は角文研会長の吉田茂人さん、右は著者の塩見なゆ(写真:ひとまち結び編集部)

 取材場所は北九州市小倉北区紺屋町にある1938年(昭和13年)創業の「平尾酒店」。会長の吉田茂人さんと事務局長の金成子さん、そして角文研のメンバーの櫻井淳子さん、岩田千鶴子さんに集まってもらい、まずはお酒を囲んで乾杯から始めます。

 事務局長の金さんは創立メンバーの1人。「福岡から北九州へ仕事で来たら、まちじゅうに角打ちがあって驚いた」と言います。会長の吉田さんによると、15年ほど前までは北九州市内に200軒近くもの角打ちがあったそうです。

 後継者の問題などから軒数は減っているものの、今でも100軒ほどが営業しているとのこと。東京都区内の角打ちよりも軒数は多いのではないでしょうか。