JR広島駅構内の「たった2坪」の個人店がミラクルを生んでいる。一杯600 円の生ビールを求めて一日200〜300人がやってくる。新幹線の改札口から直行の観光客やビジネスマンもいれば、会社帰りの若いサラリーマンやOLも多い。オープン月の売り上げは約一千万円を記録。周囲への経済効果も大きい。小さな個人店の可能性を探る。

 「閉塞感」の三文字がスマホ画面に頻繁に浮かぶ世の中だが、全国を旅すると、「小さな個人店」から新しい文化やビジネス、その可能性が生まれ育っている。

 2019年10月2日にグランドオープンしたJR広島駅構内の商業施設「ekie(エキエ)」。新幹線の改札からエレベーターですぐの食料品エリア「ekie KITCHEN」のイートインコーナー「エキエスタンド」前にある、たった2坪の個人店がミラクルを生んでいる。

 店の名前は「ビールスタンド重富ekie」。広島市内の酒店オーナー、重富寛さんが自ら生ビールを注ぐ小さな店。ここに一杯600 円の生ビールを求めて一日200人〜300人がやってくる。売り上げは、開店当月は990万円(税抜き)を記録し、その後も賑わい続けている。

ビールスタンド重富。JR広島駅「ekie KITCHEN」のイートインコーナー「エキエスタンド」前にある。カウンターに立つのが重富寛さんである(写真:筆者、以下同)

 周辺への経済効果も目を見張る。ビールを飲めばツマミが欲しくなるからだ。隣の串揚げ専門店「葛 広宮」は、広島市内にあるミシュラン掲載和食店「葛」の直営。斜向いの「和惣菜 笑福」は、カキをはじめとした広島食材が中心。ビールを飲みに来た客が広島の食と出会う。

 他にもエリア内には中華や洋風デリなどチョイスの幅が広く、どの店舗にも朝から晩まで「ビールスタンド重富」の客たちがツマミを買いに訪れる。

こちらは隣の串揚げ専門店「葛 広宮」。ビールスタンド重富によるビールとのマリアージュもアピールし、お互いに誘客している

 客層を観察して感心するのは、20代、30代の女性客が多いこと。「新幹線に乗ってビールを飲みに来た」と語る観光客やビジネスマン、外国の人もちらほら。これからの消費を支える若い世代と県外・国外のインバウンド客をつかんでいるのだ。

たった2坪のお店に、次から次へと客が押し寄せる

 商売繁盛、周辺にも経済効果があり、広島発信の役に立ち、若い世代やインバウンド客を引き寄せ、閉塞感を吹き飛ばす。

 そんな理想が実現した理由を重富寛さんの生ビールを飲みながら聞いた。

ありそうでなかった集客の仕組み

 JR広島駅の新幹線改札口を出ると、2分ほどで「ビールスタンド重富」に到着する。14時過ぎ。重富さんはビールサーバーの前に立ち、笑顔で迎えてくれた。

 まずは一番シンプルな「一度注ぎ」を注文。昭和のサーバーから一気に勢い良く注ぐ生ビールの泡をさっと切っただけの一杯をゴクゴク飲(や)る。喉から広がる爽快感とともに身体中にエネルギーがみなぎる。これを求めて電車に乗ってくる人がいるのはわかる。自分も取材と称しながら、実は、この一杯をずっと楽しみにしていたからだ。

昭和のサーバーからビールを一気に注ぐ重富さん

 同店の人気の秘密は、この店が現代のサーバーと併用する「昭和のサーバー」にある。昭和のサーバーは、現在どこの居酒屋にもある現代のサーバーと異なる。ビールが通過するチューブの内径が、現代のサーバーが5㎜、昭和のサーバーが9㎜。この差が、ビールの流量の差となり、昭和のサーバーで一気に注いで泡を切った生ビールは、ビール本来の元気さをそのまま感じられるのだ。

 また昭和のサーバーを併用すると、普通の樽生ビールを味や香りや喉ごしが異なるビールに注ぎ分けることもできる。同店のメニューは、基本の「一度つぎ」の他に、「二度つぎ」「三度つぎ」「マイルドつぎ」「シャープつぎ」と、泡だけの「ミルコ」、それに広島名菓「もみじ饅頭」のリキュールを加えたカクテル「ひろしまミルコ」の合計7種類があり、ビターからスイートまで選択肢が多いのも人気の理由だ。

メニュー表。合計7種類のドリンクが用意されており、ビターからスイートまで選択肢が用意されている

 平日の午後にも関わらず、どんどん人が並ぶ。近くの店の惣菜をツマミに飲む人がイートインコーナーを埋め尽くす。しかし回転は悪くない。1、2杯飲んで食べると席を立つ。そこに新しい客が入り、至福の時間を過ごす。

 「一般的に飲食店の売り上げの3割はドリンクなのに、これまでどこのフードコートでも、ドリンクは料理よりも下に見られて重要視されてこなかった。この空間はビールを料理と同じ主役に位置づけることで、新しい集客の流れを実現しているところが画期的だと思います」と、重富さんが話してくれた。

 30代と思われるスーツ姿の男性が「ここは並ばなくていいし、3杯以上飲めるのがうれしい」と言っている。広島出張が終わり、新幹線で帰る前に一杯やりにきたという。

 実は、広島駅の「ビールスタンド重富」は2号店。本店は別にあり、そこは行列ができ、上限が2杯と決められた店なのだ。

 なぜ上限が2杯なのか。ここで、その本店の説明をしなければならないだろう。