東日本大震災から11年が経つが、甚大な津波被害を受けた東北地方沿岸部の主要産業である水産業と地域の苦労は今も続く。行政や金融機関の支援を受けて再建した会社も売り上げがなかなか戻らず、せっかく設備投資をしたものの資金繰りに苦労するケースが少なくない。そこに、コロナ禍や魚介類の不漁が追い打ちをかける──。そんななかで、震災から復興した石巻の水産加工会社と、東北を地盤とし「東北を盛り上げること」をミッションとするご当地アイドルグループのコラボが誕生した。地元企業とご当地アイドルの組み合わせから、地域振興の新しい在り方、新しいコミュニティのつくり方を探る。

 今年(2022年)3月11日をもって、東日本大震災の発生からちょうど11年が経過した。被災エリアの主力産業の一つは水産業だが、状況はまだ厳しい。

 現地の水産業を調べると、よく話題に上るのは資金繰りの苦労である。震災後、行政や金融機関に支援されて設備投資を行い再建したが、返済原資の捻出(ねんしゅつ)に苦労している会社が少なくない。

 加えて、2020年春以降の新型コロナウイルスの感染拡大で、事業活動が制限されている。観光需要の減少に加え、かつては港町の景気を沸かせたサンマやイカなどの不漁が続くのも悩ましい。

 ひるがえって被災エリアをマクロ的な視点で見ると、地域社会の維持に必要な人口は、ほぼ全域で減少が続く。地域に人を惹きつける産業などの魅力的な要素がないと、人口は減る一方だと想定される。

震災復興のシンボル的な水産加工会社

 そのような状況下、地域をけん引する企業として注目を集めている企業がある。宮城県石巻市に本拠を置く水産加工会社、木の屋石巻水産(以下、木の屋)だ。

 同社は1957年創業。豊潤な漁場がある石巻という地の利を生かし、鮮度の高い魚を缶詰に封じる独自技術「フレッシュパック製法」と併せて、食品業界では震災前から名の知れた企業だった。

 東日本大震災による津波で、本社と工場が文字通り壊滅した。だが、不幸中の幸いと言えるのか、早期復活のカギとなったのが、瓦礫と泥に埋まった缶詰だった。倉庫に保管していた100万缶のうち半数が埋まってしまったが、震災前から交流があった東京都世田谷区経堂の飲食店主たちから「泥まみれでいいから送ってほしい」との連絡を受けた。

 震災の爪痕が生々しい東北の地で、真っ黒な缶詰を車に積む。それを受け取った経堂の人々はその1個1個をタワシで丁寧に洗った。さらには、それら缶詰を義援金と交換する活動をスタートさせたのだ。

2011年の東日本大震災直後、東京都世田谷区経堂における商店街の一角で、木の屋から運んだ缶詰を取り出している様子(写真撮影:筆者)
2011年の東日本大震災直後、東京都世田谷区経堂における商店街の一角で、木の屋から運んだ缶詰を取り出している様子(写真撮影:筆者)
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 この活動は多くのメディアに取り上げられ、直後から注文が殺到。その後、被災地である石巻にも全国からボランティアが集まるようになり、缶詰を洗う作業が活発化。2011年度中には約22万缶が義援金に換わり、それが木の屋の早期復興の助けとなった。2年後の2013年3月、同社の新工場が完成した。

 木の屋が得意とするフレッシュパック製法の技術は、もちろん新工場にも適用されている。掘り起こした缶詰のエピソードとともに、同社の「金華さば味噌煮」などの主力商品がテレビ番組で取り上げられ、木の屋の知名度は全国的にも高まった。

 その結果、同社の売上高は2015年9月時点で震災前のレベルである16億円にまで回復。その後は商品数を増加させ、牛タンやホヤなど新しい缶詰もヒットさせた。現在の年間売上高は20億円を超えるレベルにまで伸び、宮城県内のみならず県外からも新卒学生を採用するようになっている。

 しかし、そんな木の屋にも将来の不安があるという。木の屋・営業部課長兼広報担当の松友倫人さんは、こう語る。

 「震災後、全国的に知名度が上がった弊社の缶詰ですが、元々地域密着型の会社なので、宮城県を中心とした東北地方の売り上げ比率が高いのです。しかし、周辺地域の人口が減り続けるとマーケットが縮小してしまいます」

 「それと併せて課題となっているのが、若い世代とのつながりです。現在、ご購入者の中心はシニア世代。これからのお客さまである若い世代とのつながりを育てておかないと、弊社の未来はありません」

 つまり、クリアすべき課題は「地元の人口減少に歯止めをかけること(地域マーケットの維持)」と、「若い世代とのつながりを増やすこと(未来の顧客の獲得)」の二つ。

 「どちらも、マーケティング戦略をどう立てればいいのか難しい。分析手法を学びながら、メディアへの露出やイベントの開催などさまざまな施策を試してきましたが、課題解決につながる結果は出ず、悩んでいました。ですが、ひょんなことから、面白くて新しいアプローチの可能性が見えてきたんです」

 それは意外にも、歌って踊るアイドルとのコラボレーションだった。

木の屋・営業部課長兼広報担当の松友倫人さん。「いぎなり東北産」とコラボした缶詰3個セット3種類、そして特典のランチョンマットと共に(写真提供:河北新報社)
木の屋・営業部課長兼広報担当の松友倫人さん。「いぎなり東北産」とコラボした缶詰3個セット3種類、そして特典のランチョンマットと共に(写真提供:河北新報社)
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