新型コロナウイルスの影響で世界に未曾有の危機が到来している。人と人の接触により伝染するウイルスは、人類のリアルな行動を大きく制約する。何しろ、人が「集まる」「移動する」という社会に必要不可欠なことが危険行為となるのだ。飲食、ライブ、イベント、スポーツ、会議、交通、旅行、教育など、多くの業種に影響が及んでおり、倒産する企業も出てきた。世界経済へのダメージはリーマンショックの比ではないと言われる。しかしそんな中でも、小さな場所から新しい変化が生まれている。未来に希望をつなぐ事例を紹介しよう。今回は埼玉県本庄市の経営者が立ち上げた「ネット酒場」である。

 「閉塞感」の三文字がスマホ画面に頻繁に浮かぶ世の中だが、全国を旅すると、「小さな場所」から新しい文化やビジネス、その可能性が生まれ育っている。

 今各所で大きな影響を及ぼしている、新型コロナウイルス。しかし、この危機を「仕事や社会のあり方を進化させる機会」ととらえ、活動を始めた人たちがいる。しかも、その内容が楽しそうで、その人や活動の場であるまちが魅力的なのだ。

 まず筆者が訪れたのは、埼玉県本庄市。この地で21年前からホームページ制作を中心にITソリューション事業を展開しているディーアイケイの経営者・金子弘行さんに会いたかったからだ。金子さんを知ったのは、「みんなの経済新聞ネットワーク」に参加するWEBメディア「本庄経済新聞」(埼玉県本庄市とその圏域内のビジネスとカルチャーのニュースを扱っている)の記事。東京都・経堂地域の個人店と文化を活性化するプロジェクト「経堂系ドットコム」を運営している筆者としては、日本各地の経営者がこのコロナ危機をどう乗り越えようとしているのか、意見を伺いたいという気持ちもあった。

ディーアイケイの経営者・金子弘行さん。右の画面は金子さんが運営するネット酒場「全国ネットミーティング推進協議会」のFacebookページ(写真撮影:筆者)
ディーアイケイの経営者・金子弘行さん。右の画面は金子さんが運営するネット酒場「全国ネットミーティング推進協議会」のFacebookページ(写真撮影:筆者)
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 金子さんは2月に入り、リアルな会議や打ち合わせのスケジュールが次々と中止となった時、「本格的なネットミーティングの時代が来る!」と感じたという。

 参加者が一ヵ所に集まる必要のないネットミーティングは時間的な効率が良い。東京の打ち合わせ先まで片道2時間という金子さんの場合は、たった1時間の会議に参加するだけでもトータルで5時間かかってしまう。本当に重要な会議は必要だが、メールのやり取りで済むようなものなら、なるべくネットミーティングで済ませ、限りある時間を有効活用したい──。金子さんはそのような思いを以前から抱いていたという。

 「新型コロナウイルスの問題は大変なことですが、いろんな本を読んで歴史を振り返ると、人類は危機を乗り越えるべく知恵と努力によって変化し、そして生き残ってきたことがわかります。変化が進化。我々も今、そういう時なのかもしれません」。金子さんは開口一番にこう語った。

 金子さんは以前から仕事の現場でWeb会議のシステム利用を広めようとしてきたが、クライアントや関係者の「なんとなく慣れない」という理由から定着しなかった。しかし今や、リモートで仕事を進める環境づくりは待ったなし。「今が動くタイミングだ」と判断した。

 「ただ、ネットに不慣れな人に慣れてもらうには、いきなり堅い話をするよりも遊びから入るのが良いと思い、まずはネット飲み会を開催することにしました。私たちは20世紀、パソコン通信の時代から文字によるチャットで定期的に飲み会をしていましたから」

 金子さんは、2020年2月19日に「全国ネットミーティング推進協議会」というFacebookグループを立ち上げ、22日に第1回を開催した。それ以来、毎週土曜日の19時に開始。パソコンの前で好みの酒と肴を用意して参加する「客」が10名ほど。金子さんを「マスター」として3時間程度の営業を行う。

ネット酒場の様子。Web会議サービスを使っている(画像提供は金子弘行さん)
ネット酒場の様子。Web会議サービスを使っている(画像提供は金子弘行さん)
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 店のオープンから1ヵ月。さまざまな気づきと可能性があったという金子さんの話は、実に刺激的だった。

──記事冒頭の画像:グラスを交わした先に感じる、人のぬくもり(イメージ) original image: Crin / stock.adobe.com