ネット酒場から生まれた新しい展開、予想以上の盛り上がり方も

 「ネット酒場は、ITの知識がある人なら、例えばZoomなどのWeb会議サービスを使えば誰でも開催可能。しかし、1回なら盛り上がりますが、2回、3回と続けて、『おもしろい』とお客さんがリピートしてくれて、『おもしろそう』と新規客が来てくれるようになるのは意外と難しいとわかりました。リアルにつながっている実感が薄いネット酒場は、飽きやすいからです」

 そんな金子さんのネット酒場が盛り上がる理由は、これまでの酒場体験が役に立ったという。

 「ネット酒場は、デジタルな場なのに、酒場のカウンター以上にマスターの役割が重要。雑談だけだとすぐ飽きると初回に気づき、ヤバイと感じて、2回目からは参加者の体験談を引き出すようにしました。お酒が好きでいろんな酒場に通ってきましたが、優良なバーのマスターって、初めはあまりしゃべらずお客の話を聞いているけど、話題が途切れて沈黙が続いたり、ずっとしゃべれないでいる人がいると、ポーンと絶妙な言葉のパスを投げたりしますよね。そんなリアルな酒場のマスターの言葉使い、気配り、話題のふり方などを思い出しながら進行するとうまくいく。それは、ある意味上質なファシリテーションだとも気づきました」

 ネット酒場に運営のコツがあると気づいた金子さんは、参加者の経歴や個性を把握しながら、マスターもしくはファシリテーターの意識で進行を行うようにした。すると、酒場に予想外の盛り上がりが生まれてきた。

 「うちのネット酒場は、企業の経営者が多いので『社長の酒場』と呼んでいます。参加者の人生経験を引き出すと、それが興味深いコンテンツになります。リアルにM&Aを仕掛けられ自社を買収された人。あるいは、コロナウイルス問題の経済対策で中小企業に緊急融資が行われますが、早速、申し込みに行った人。また、ネット飲み会に参加するうちに『WEBファシリテーター』という新しい職業が成立するのでは、と熱く研究を始める人。その他いろんなリアルなドラマが聞けて、翌週にはドラマに新しい展開がある」

 デジタルなイメージのネット酒場が、リアルな酒場以上の人間味を帯びて盛り上がる。金子さんによると、ネット上の「飲みニケーション」は、むしろリアルが持つ良さに関する気付きが多く、「リアルとネットの混合が理想」とわかってきたという。

ネット酒場の参加者。酒と肴を準備してパソコンの前で飲み語る(画像提供:金子弘行さん)
ネット酒場の参加者。酒と肴を準備してパソコンの前で飲み語る(画像提供:金子弘行さん)

「地元酒場を活用」ネット上で地域を盛り上げるアイデアも

 金子さんの話でさらに面白かったのは、以下に記すネット酒場のメリットとデメリットの分析だった。

■ネット酒場のメリット
1)新型コロナウイルスを予防できる
2)安く飲める
3)往復の時間が省ける
4)飲めない人も楽しめる
5)堂々とタバコが吸える
6)少数派、仲間はずれが出ない
7)全員でひとつの話題
8)心おきなくギターが弾ける
9)お酌しなくていい
10)終わったら布団に直行

■ネット酒場のデメリット
1)家族にうるさがられる
2)自宅を覗かれてしまう
3)難しい議論はしんどい
4)軽い話ばかりでは飽きる
5)面白くないとリピートしない
6)システムトラブルの対応に時間を取られる
7)操作説明が難しい
8)パソコン、スマートフォンのスキルが必要
9)美味しい料理が注文できない
10)別の店にハシゴできない

 「リアルとネットの混合」を考える上でとても参考になる分析。リアルとネット、それぞれに良い面、悪い面があり、より良い結果を生むには、組み合わせを考える必要があるとわかる。

 「ネット酒場を運営したことで、それまでは当たり前だと思っていたリアルの良さに改めて気付けました。リアルな会議や飲み会は、参加者の健康管理、クラスターを生まないように衛生上や空間運営の工夫をしながら参加できるようにする。来られない人はパソコンやスマートフォンでも参加できるようにする。これなら、遠方の人も喫煙者も、いろんな人が参加でき、より幅広い意見やアイデアが行き交うようになる」

 進化の先にある姿は、リアルとネットの適切な組み合わせ、つまり「ハイブリッド」なのだ。

 「私が言う『リアルとネットの混合』は、単にネット酒場だけではなく、あらゆる仕事、コミュニティの運営に応用できると思います。例えば今、多くの人が都心の会社への出社を禁じられ、自宅でリモートワークしていますが、このリモートワークにはデメリットもあります。家族が機密情報を見てしまうなどセキュリティの問題もあるし、子どもが走り騒ぎ集中できないかもしれない。だったら、コロナウイルスの影響で売り上げが落ちている地元居酒屋の始業前の客席を、朝9時から夕方5時とか、ネット環境を整えてコワーキングスペースにすれば売り上げの足しになるし、地元の人のつながりも増えて良いと思う」

 先述したWEBファシリテーターの議論が象徴しているが、今回の危機から、新しいビジネスや職種のアイデア、地域を盛り上げるための手法が生まれてくる可能性もある。

 「そもそもネットはリアルの代替手段ではなく、相乗効果を生むものです。今回の新型コロナウイルスの流行を契機に、いよいよ生産性の高い、平和な世の中へと変わってほしい。ネットを活用して無駄な会議がなくなれば、それだけで日本経済も上向く気がする。スマートな在宅勤務が普及すれば、子育ても楽になり、少子化対策になるかもしれない。子どもたちにとってネット学習が選択肢のひとつになれば、いじめに遭ってもその学校に無理して行く必要がなくなる。また、現場のノウハウを持ったさまざまな人たちが、そのノウハウをネットを通じて世界中の欲しい人たちに直接教えて、お金をもらうことが活発化すれば、大きなマーケットが生まれるはず」

 また、金子さんはネット酒場の運営と、地元・本庄市での企業経営という2つの活動を通じて、人々の目が地域のコミュニティに向きはじめている様子を感じ取っている。

 「企業のリモートワーク化が進むなか、以前は都心で仕事帰りに飲み、地元に戻っても寝るだけだった人たちが、地元のコミュニティの在り方に関心を持ち始めています。これからはネットで集まった人たちを地域のお店に紹介する、あるいは飲食店などの空間にネットの発信機能を持たせ、ネットとリアルが融合するハブとなるようにする、そんなお手伝いもしていきたいですね。そうすれば地域のお店も経営がより安定するのではないでしょうか」

 インターネットビジネスの黎明期だった2000年頃から今に至るまで、「ネットの発達を受けて人々の働き方や暮らし方が大きく変わる」と言われてきた。だが、生身の人間にとって習慣の力は大きいもので、なかなか従来のやり方を変えられなかった。

 もちろん人類にとって災禍は見逃せないし避けたいものだが、新型コロナウイルスのような危機が大きな変化への後押しとなるというのは、金子さんが言うように人類の真実なのだろう。

 新型コロナウイルスの問題は世界中で深刻化している。だが今を生きる私たちはウイルス対策と同時に、リアルとネットのハイブリッド化を考えながら、身の回りの小さな場所から次の時代の準備を進めておかなければならない。金子さんの話を聞きながらそう感じた。

 次回は新型コロナウイルスをきっかけに加速している、近隣の農家、飲食店、そして市民をつなごうとする東京都国分寺市のマイクロコミュニティの動きを紹介する。

著者 須田泰成(すだ・やすなり)
1968年、大阪生まれ。コメディライター&プロデューサー。テレビ、ラジオ、WEBの番組やコンテンツの脚本、構成、プロデュース多数。「スローコメディ広告社」代表。20歳の時に世田谷区経堂へ。2000年に、経堂の個人店と文化を活性化するプロジェクト「経堂系ドットコム」を立ち上げる。WEB「みんなの缶詰新聞」編集長。「経堂経済新聞」編集長。著者に『モンティパイソン大全』など。