地域経済に大きなインパクトを与えた好例として知られる、広島市民球場「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(以下、マツダスタジアム)」。2009年に完成したこの球場のポイントは、その集客力と経済効果。市外から訪れる関係人口の増加と併せて、これまでの経済効果の累計は数千億円といわれる。広島市役所の職員であった日高洋さんは、マツダスタジアムの企画と実現に尽力した一人だ。広島市経済観光局長を務めた後も現役のまちづくりプランナーとして活動しており、プロバスケットボールチーム「広島ドラゴンフライズ」の新アリーナ準備室顧問に就任するなど、退職後も地域活性化の仕事を精力的に続けている。時代を先取りし、多くの困難なプロジェクトを成功に導いた仕事ぶりを追いつつ、地域に貢献する施設とコミュニティの在り方を探った。

 第二次世界大戦で原子爆弾が投下された広島。未曽有の被害からまちを復興させるに当たり、当時の広島市民の熱烈な応援で誕生したのが広島東洋カープだ。国内唯一の市民球団といわれ、成長を続けてきた。

 広島カープの本拠地球場として2009年に完成したマツダスタジアムは、野球の本場・米国の「ボールパーク」に倣って、エンターテインメント性を重視。野球ファンだけでなく、地域の老若男女が世代を超えて余暇やレジャーを楽しむ場として企画された。

 新たなコンセプトに基づいてつくられた結果、旧広島市民球場時代に比べて、観客動員数、売り上げ、広島県における経済効果は劇的に増えた。

 具体的な数字を挙げよう。広島カープ球団の観客動員数は、旧球場で年間100万人程度だったが、新球場であるマツダスタジアムがオープンした2009年は年間187万人と、ほぼ倍増。2015年には初の200万人を超える211万人を記録した。

 球団の年間売上高はどうか。旧球場時代の2008年は過去最高の71億円だったが、マツダスタジアムの初年に当たる2009年をみると、売上高は前年を46億円も上回る117億円。広島県における経済効果は約205億円と試算されるほどになった。

 そして、25年ぶりのセ・リーグ優勝を果たした2016年、観客動員数(「クライマックス・シリーズ」と「日本シリーズ」を含む)は237万人を記録。その経済効果は約353億円と試算されるまでになった。

 2020年以降、コロナ禍の影響を受けて、球団は2年連続の赤字である。だがこれまでの経済効果と併せて、地元における広島カープへの期待感は相変わらず強いという。

 この成功の縁の下に、一人の広島市職員がいた。それが日高洋さんだ。

マツダスタジアムと日高洋さん(写真撮影:山本 真梨子)
マツダスタジアムと日高洋さん(写真撮影:山本 真梨子)
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 日高さんは、一級建築士の資格を持つ、まちづくりの専門家でもある。これまで広島市職員という行政側の立場で、「広島市都市再開発方針」、「ひろしま都心活性化プラン」、「広島西飛行場跡地利用計画」、被爆建物である「広島大学旧理学部1号館の保存・活用の方針」、「新中央市場建設基本計画」など、多様な計画の策定に携わってきた。また「ひろしま菓子博2013」などの事業にも関わるほか、2020年夏の開催をめざしたヒロシマ・オリンピックの招致検討も行ったという。

 筆者に日高さんのことを教えてくれたのは、「広島エヴァンジェリスト」の肩書で、広島のヒト・モノ・コトを全国とつなぐ活動を続けている山根圭織さん。

 「地方創生に興味があるなら、ぜひ日高さんに会ってほしい。実績もすごいけれど、いろいろな人たちが『あんなふうに仕事ができる人になりたい』と憧れるロールモデルなんです。最近、早期退職して、島根の実家で農業をしながら広島との二拠点生活を始めたそう。そういう時代を先取りする行動も、若い世代から尊敬されている面白い人ですよ」

 日高さんに会って、話を聞いてみたくなった。