新型コロナウイルスの影響で社会の閉塞感が増している。感染の恐怖や経済の落ち込みで不安が高まるなか、以前のように気晴らししたり、ストレスを解消したりするのは容易ではない。なにしろ、人が集まる、移動することから生まれる楽しみがことごとく失われているからだ。しかし、そんな時でも、小さな場所から生まれる新しい変化が未来に希望をつなぐ。今回紹介するのは「旅するおうち時間」というオンラインでのバーチャルツアー企画。人口約1000人の村から生まれたイノベーティブな企画の中身を見てみよう。

 毎年GW(ゴールデンウィーク)の連休といえば、北海道の最北端にも春が訪れ、全国で旅やレジャーが盛り上がり、一年で最も人々が明るく開放的な気分になるシーズンのひとつだ。それが今年は新型コロナウイルスの影響で、旅行産業は壊滅状態。「ステイホーム」が国民的流行語のようになり、食料の買い出しにも緊張を強いられる。今となっては、電車の窓の外に広がるありきたりの風景がどんなに我々を癒やしてくれたかと、ありがたく、そして懐かしく思う。

 それでも、何かスカッと爽やかなことはないかと思っていたら、友人からとても面白いことを教えてもらった。

 「旅するおうち時間」というツアー企画だ。

「旅するおうち時間」のWEBページ(出所:旅するおうち時間)
「旅するおうち時間」のWebページ(出所:旅するおうち時間)
[画像のクリックで拡大表示]

  ホームページによると料金3万円。ツアー参加者には、5月1日から6日までの毎日、高知県高岡郡四万十町、宮城県石巻市、三重県尾鷲市、熊本県球磨郡五木村、石川県七尾市、山口県大島郡周防大島町の6つの自然豊かな地域から順に美味や動画などが届いた。さらにはオンラインでつながるイベントもあり、現地の人と会話を楽しめる。外出自粛が続くGW期間中、「おうち」にいながら旅行気分を味わえる内容だ。

 企画したのは、熊本県五木村に暮らし、まちづくり会社「日添(ひぞえ)」を運営する日野正基さん。早速、オンラインで話を聞いた。

新しい旅は人口1000人の小さな村から始まった

 「旅するおうち時間」を企画した日野さんへの取材前、なぜか、まだ訪れたことのない熊本県五木村の風景が強く見たいと思った。画像検索をすると、たくさんの心洗われる風景がパソコンの画面上に浮かぶ。

豊かな里山と共生する五木村の集落。有名な「五木の子守唄」」はこの土地の発祥(写真提供:日添、以下同)
豊かな里山と共生する五木村の集落。有名な「五木の子守唄」はこの土地の発祥(写真提供:日添(ひぞえ)、以下同)
[画像のクリックで拡大表示]

 平家落人集落の伝説が息づく有名な秘境・五家荘エリアの南隣に位置する人口1000人の小さな村。夏に鮎釣りがファンを魅了する日本一の清流・川辺川の源流があり、川を中心にゆるやかに広がる山間(やまあい)の土地に小さな集落が点在。照葉樹林が繁る里山は秋に目の覚めるような紅葉が色づく。新しいレジャーもあり、絶景でのバンジージャンプやカヤックは、熊本市や他府県の都市部の若い世代も惹きつける。しかし同時に65歳以上の高齢者人口が全村の50%を超えるという深刻な問題も抱える。

 1987年に新潟市で生まれた日野さんは、大学在学中に中越地震の復興活動をきっかけに「地域」に関わる仕事を始めた。インターンシップ事業「にいがたイナカレッジ」や移住者発信メディア「移住女子」のプロデュースを行い、地方での起業支援、移住に関する研究、集落の計画づくりにも参加。2018年、結婚を機に五木村へ。まちづくりを手掛ける会社、日添(ひぞえ)を立ち上げ、自ら移住と地方での起業を体現する存在となった。

黒い服の男性が日野正基さん。その右の女性が奥様の望生さん。左は望生さんの祖父・祖母
黒い服の男性が日野正基さん。その右の女性が奥様の望生さん。左は望生さんの祖父・祖母
[画像のクリックで拡大表示]

 日添の事業は、村に暮らす1000人をしあわせにすることを目標に、自然養蜂のハチミツづくりなど地域の人や資源を「活かす」、地域の事業者と学生をマッチングするなどの「つなぐ」、デザインや編集により商品や地域に貢献する「つくる」、村内で運営する「CAFÉみなもと」で村の米や野菜、果物などを訪れた人たちに提供する「食べる」の4本柱からなる。

 インタビューが始まると日野さんは、4月7日の緊急事態宣言以降、新型コロナウイルスの影響は目に見えて明らかになったと話してくれた。

 「もともと人の少ない田舎で、まったく密ではないので、3月はまだ熊本市内からも人が来ていました。それが4月7日の緊急事態宣言以降、急に観光客が来なくなり、CAFÉみなもともガラガラに。例年ならGWはバンジージャンプやカヤックで盛り上がる稼ぎ時ですが、今年はダメだと思いました。

 それでも何か売らないと村の経済が回らないので、ハチミツや豆腐、紅茶、お米などの通販に力を入れようと考えました。でも、五木村の産品は美味しいけど、うちの通販事業は始めたばかりで知名度がなく発信が難しいと悩みました」

 新型コロナウイルスの影響が明らかになり、新しいビジネスモデルを打ち出す必要に迫られたが、同時に壁にぶつかった。しかし、その時、日野さんの脳裏に全国の仲間たちの顔が浮かんだという。