10日で立ち上げ4日で完売、スピーディーな地域間連携モデル

 ピンチに立たされた日野さんが思い浮かべたのは、これまで移住関係のイベントなどで一緒になり、活動をともにした仲間たちの顔だった。高知県四万十町、宮城県石巻市、三重県尾鷲市、石川県七尾市、山口県周防大島町、5つの地域の人たち。どこも高齢化や人口流出に悩みながら、豊かな自然や美味しいものなど、地域の資源活用を模索し、都市部からの集客に取り組む。悩みを語り合い酒席をともにしたこともある仲間たちだ。

 連絡を取ってみると、共通のテーマが見えてきた。

 「新型コロナウイルスの影響で、どこも同じように経済的なダメージを受けていると感じましたが、個性のある食材や美しい風景があり、住む人も魅力的なので、通販だけではなく、プラスアルファのコラボが面白いと考えました。どの地域の人たちも『やってみようよ!』と快く言ってくれて、初めての取り組みにも関わらず、とてもスムーズに話が進みました」

 驚いたのは、日野さんが全国の仲間たちに連絡を取り始めてから、実現するまでのスピードだった。

 「もともと良い関係性があったのが大きかったですね。4月7日の緊急事態宣言から10日のうちに内容をかため、4月18日にリリースを打ちました」

「旅するおうち時間」のWebページより、石川県七尾市で民間まちづくり会社「御祓(みそぎ)川」を経営する森山奈美さん
「旅するおうち時間」のWebページより、石川県七尾市で民間まちづくり会社「御祓(みそぎ)川」を経営する森山奈美さん
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 そして生まれたのがGWオンラインツアー企画「旅するおうち時間」だった。3万円の商品を100セット限定で販売したら、4日で完売。急遽、追加注文も受け付けた。

全国との「つながり」で多様な「もの+時間の使い方」を提案

 そしてGWに突入して「旅するおうち時間」を実施。毎日、日替わりテーマで届く美味と動画が参加者の五感を楽しませた。

 5月1日(金)の「おやつの時間を楽しめるおくりもの」は、四万十の緑茶や地栗など。動画は、お茶の淹れ方、栗スイーツの食べ方、保存方法など。

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 5月2日(土)の「よるごはんの時間を楽しめるおくりもの」は、宮城県石巻市から金華サバなどの海の幸。動画は、冷凍魚を使ったお寿司の握り方、魚のさばき方。

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 5月3日(日)の「おふろ時間を楽しめるおくりもの」は、三重県尾鷲市から紀伊半島最南端の尾鷲ヒノキを使ったヒノキ入浴木や海の幸の珍味など。

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 5月4日(月)の「あさごはんの時間を楽しめるおくりもの」は、熊本県五木村から千花蜜やホットケーキミックス、豆腐製品、紅茶など。動画は、ふわふわホットケーキの作り方、美味しいご飯のおともの食べ方。

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 5月5日(火)の「ひるごはんの時間を楽しめるおくりもの」は、石川県七尾市から能登半島の海の幸、塩、赤ナマコ石鹸など。動画は、牡蠣の美味しい食べ方や赤ナマコ石鹸と美肌のウンチク。

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 5月6日(水)の「ほろよいの時間を楽しめるおくりもの」は、周防大島から瀬戸内の海の幸や果実を使った産品。動画は、ジャムとワインの美味しい食べ方。

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 その日のおくりものを送ってくれた地域の人と話ができるライブ配信「おうち時間でおはなし会」では、まるで旅先の居酒屋で話すような交流が生まれた。さらに「おうち時間で旅気分」はそれぞれの地域の絶景写真データを送るサービスで、ZoomなどWeb通話の背景写真にして旅気分を味わう人もいた。

 「参加者は東京の方が多かったですね。旅に行けない友人知人にギフトとして贈るケースも多く、帰省できない息子に田舎のお母さんがプレゼントする注文もありました」

 「単に商品を売るだけでなく、提案したかったのは時間の使い方です。食材だけでなく、お茶の淹れ方や魚のさばき方、ホットケーキの作り方など、現地の人が教える動画がある理由は、手間のかかることをあえて提案したかったから。普段コンビニで買ったペットボトルのお茶しか飲まない人に、時間をかけて急須でゆっくりお茶を淹れる体験をしてもらうことに意味がある。6つの地域が提案する時間の使い方が旅につながる」

 6つの地域の人々とオンラインでつながり、ふれあいを楽しんだ参加者の多くは「次はリアルで会いたい!」と互いに盛り上がった。ガイドブックやネット上には載ってない現地情報を知り、行きたいお店や見たい風景など、旅のプランを立て始めた人もいる。またZoomによるイベントで知りあい、SNSを通じて交流を始めたケースもあり、オンラインの旅にも出会いがあるとわかる。

 最終的な参加者は当初予定の4倍の400名。ツアー後、今回申し込みしなかった新規客を含む150名がすでに次回の参加を希望している。

 「夫婦2人+子ども1人の家族での参加も多く、いろんな地方のものや人、時間の過ごし方に触れて、日本地図に興味を持ち始めた子どもたちがいたと聞いてうれしかったです。『地域づくりに興味が湧いてきた』という人が意外に多く、全国的な地域の課題である関係人口の増加にもプラスになると思いました。あとは、生産者の皆さんが普段は直接関わることのない都市部のユーザーさんの声を聞けたのはとても参考になりました」

 新型コロナウイルスの影響を受けて萎縮するだけではなく、経済を回し、人をつなぎ、地域の魅力を伝え、時間や空間の制約を受けないオンラインの長所をフルに活かす──。「旅するおうち時間」は、新しいビジネスモデルの成功例を示したと言える。

 「旅するおうち時間」は、緊急事態宣言の延長が決まったことを受けて、5月中に2回目を実施するという。日野さんが蒔(ま)いた種が、これからどのように広がり育つのか、楽しみだ。

筆者 須田泰成(すだ・やすなり)
1968年、大阪生まれ。コメディライター&プロデューサー。テレビ、ラジオ、Webの番組やコンテンツの脚本、構成、プロデュース多数。「スローコメディ広告社」代表。20歳の時に世田谷区経堂へ。2000年に、経堂の個人店と文化を活性化するプロジェクト「経堂系ドットコム」を立ち上げる。Web「みんなの缶詰新聞」編集長。「経堂経済新聞」編集長。著者に『モンティパイソン大全』など。