子どもの7人に1人が「貧困状態」にあるとも言われる現代の日本。政府や自治体による教育格差の是正対策の遅れが指摘されるなか、2010年代半ばから、民間が運営する「こども食堂」の活動が全国に広がっている。さらに近年、注目を集めているのが、教育格差の問題に取り組む「無料塾」だ。7年前に活動を始めた「中野よもぎ塾」は、経済的な理由から塾に行けない中学生を対象にした無料の学習塾。主宰者の大西桃子さんの話を聞くと、新たなマイクロコミュニティの可能性が見えてきた。

 「中野よもぎ塾」は2014年4月から、毎週末、東京・中野駅周辺の公共施設を利用して開かれている。経済的な理由から塾や家庭教師、通信教育など、有料の教育サービスで学べない中学生を対象にした無料の学習塾で、サポーターとして協力してくれている学生や社会人は全てボランティア。定員25名の生徒たちの個性やレベルに合わせてマンツーマンで指導するのが特徴だ。

 4月後半の日曜午後。その日の会場である「スマイルなかの(中野区社会福祉協議会)」3階の会議室に向かっていると、ビルの下で大きなキャリーバッグを引っ張る小柄な女性と鉢合わせた。ライターを本業にしながら同塾を主宰する大西桃子さんだった。教室に入ると、大西さんは準備を始めた。キャリーバッグには参考書や問題集などの教材がギッシリ詰まっていた。

大西さんのキャリーバッグには参考書や問題集などの教材がギッシリ
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 時間になるとサポーターと生徒が集まってきた。大西さんはホワイトボードに机の配置図を描き、生徒の名前を記し、席を決める。続いてボランティア教師の名前を書き入れ、生徒とマッチングしていく。その手際は、とてもスピーディーだ。

 「大西さんは全ての生徒の学力、学習の進み具合、環境、性格やサポーターの個性をよく把握しています。それで学ぶ側と教える側の一番いい組み合わせをつくっていくんです」

席決めと生徒・ボランティア教師のマッチングの様子。大西さんが手際よく決めていく
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 そう話したのは、中野よもぎ塾では英語を教えているサポーターの藤田正数さん。2012年から2015年まで米国に駐在した経験を持ち、実は筆者の高校の先輩というご縁もある。

 会議室のあちこちで個別指導が始まると、大西さんはそれぞれの生徒の状況を見て歩き、的確な言葉をふんわり投げる。

 「Rくん、Kくん(筆者注:実際には実名)、一次関数、覚えてるかな?」

 それぞれの生徒にとって「いま大事なこと」を知らせているのだ。サポーターも、それを受けてその日の指導のテーマを絞る。そうやって毎週、高校受験に向かうための学力を積み上げていく。

 同塾の時間割は基本的に3コマ。1時間目と2時間目が通常の科目で、3時間目は、外国人留学生の話を聞くことや、政治や法律のディスカッションなどを行うこともある。その他、希望があれば、サポーターが平日にファミレスや喫茶店で個別指導したり、生徒たちと美術館巡りやキャンプに出かけたりもする。

 生徒の6〜7割はシングル家庭の子どもたち。経済的に余裕のない環境でも、ここに来ることで、勉強だけでなく、文化体験やさまざまなアクティビティに参加できるというわけだ。

英語を教えるサポーターの藤田正数さん
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