商店街の一角にある家族経営の小さなスーパーマーケットが、奇跡を起こしている。そのお店とは、埼玉県春日部市の「みどりスーパー」。映画『翔んで埼玉』の「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」という台詞(せりふ)をヒントに、新商品「そこらへんの草天丼」を開発。さらには地元の他店と組んだスタンプラリー企画が、広く顧客に支持された。テレビや新聞などメディアの注目も集め、今やムーブメントの様相を呈している。かつてはベッドタウンとして栄えたが人口減少が続く春日部市で、巨大ショッピングモールにも負けないインパクトをひととまちに提示したみどりスーパー。そのユニークな取り組みの裏側を探った。

 『クレヨンしんちゃん』で有名な埼玉県春日部市のターミナル駅、春日部駅には、東京都の北千住駅から東武スカイツリーラインの急行に乗れば30分ほどで到着する。同駅で東武アーバンパークラインに乗り換え、船橋方面に2駅進んだ南桜井駅へ。そこから5分ほど歩くと、「庄和銀座商店会」と名付けられた商店街に行きあたる。

 周辺は住宅が立ち並んでいるにもかかわらず閑散としており、西部劇のゴーストタウンのような印象さえ受ける。その理由は、住人が駅の反対側にあるショッピングセンターなど他の場所に買い物に行くからだと推察できた。

 そんな商店街の外れに、昔のよろず屋のような風情の店舗があった。ユニークな取り組みで注目を集める「みどりスーパー」。そこには、ひっきりなしに客が出入りしていた。

庄和銀座商店会の外れに建つ「みどりスーパー」の外観(写真:筆者)
庄和銀座商店会の外れに建つ「みどりスーパー」の外観(写真:筆者)
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みどりスーパーの惣菜部で販売されている「そこらへんの草天丼」のパッケージ(写真:筆者)
みどりスーパーの惣菜部で販売されている「そこらへんの草天丼」のパッケージ(写真:筆者)
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 この店の惣菜部で販売されている「そこらへんの草天丼」は、映画『翔んで埼玉』の「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」という有名な台詞をヒントに開発されたもの。アシタバや春菊など季節野菜の天ぷらを載せた、丼もののお弁当だ。

 前身となる商品は、2年前(2019年)に開発した「そこらへんの草天ぷら」。発売開始以来、売れ続けてきたヒット商品である。この定番商品「そこらへんの草」関連商品が、今年(2021年)のエイプリルフールを境に、かつてない盛り上がりを生んでいるという。

 筆者が訪れたのは午後1時過ぎ。ちょうど作業を終えたみどりスーパー惣菜部の河内みどりさんから話を聞くことができた。河内さんは惣菜や弁当の製造を日々行う現場の人であると同時に、「そこらへんの草」企画の発案者でもある。

みどりスーパー惣菜部の河内みどりさん。河内さんが「“爆誕”商品」と呼ぶ「そこらへんの草天丼」の売り場の前で(写真:筆者)
みどりスーパー惣菜部の河内みどりさん。河内さんが「“爆誕”商品」と呼ぶ「そこらへんの草天丼」の売り場の前で(写真:筆者)
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 「『そこらへんの草天ぷら』は、ネット上でフェイクニュースが流行っていた2年前、たまたま近所の人にアシタバをもらった時に、『あ、これもそこらへんの草だ』と思いつき、早速作って売ってみたんです。そうしましたら、ツイッター上でかなりの反響がありまして、うちの“爆誕”商品になりました。今年からは『そこらへんの草天丼』にエボリューションしています」

 先に載せた「そこらへんの草天丼」パッケージ写真の値札に注目していただきたい。「さいたま」にかけた310円(税別)である。

 「今年は、コロナ禍も2年目になり疲れている人が多いし、何か面白いことをしたいと思い、スタンプラリーを思いつきました。2021年2月からツイッターで知り合った近隣のお店の人に声をかけていたら、10店舗以上が集まりました。4月11日からは『そこらへんの草』を使った商品を販売する計23店舗で『通行手形スタンプラリー』を始めたら、ネットを中心にバズり、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどの取材が相次ぎました」 

 河内さんが触れたスタンプラリーの企画とは、外食店や惣菜店などの地域のお店と連携して、アシタバや春菊、小松菜など「そこらへんの草」を使ったメニューを商品化していくというものである。参加店舗は、揚げギョーザ専門店、洋菓子店、中華料理店、居酒屋、カフェ、和菓子店、米菓店、うどん店、イタリアンレストランなど。それぞれの店が個性と遊び心を生かして、「そこらへんの草」を各店が商品化したという。

 4月半ばには参加店が24店舗に増加。スタンプラリーのついた「通行手形」を発行すると、多くの人が店を巡り、各店舗の「そこらへんの草」にまつわる商品を購入するようになった。

 「テレビの反響は大きかったですね。大勢の人たちが『そこらへんの草』関係の商品を買いに来てくれて、スタンプラリーも積極的に回ってくれました。どこのお店も連日完売が続いたようです。『スタンプラリーの紙を持って店に入ったら、すでにスタンプラリーの紙を持った人がいて、マスク越しに会話が生まれた』という話も聞きました。『コロナ禍で旅ができないなか、車で密を避けつつ春日部周辺を巡り、小旅行気分が味わえる』と感謝してくれる人もいました」

こちらが「そこらへんの草」のスタンプラリーシート。「コンプリートすると名誉埼玉県人」と書かれたPOPが印象的だ(写真:筆者)
こちらが「そこらへんの草」のスタンプラリーシート。「コンプリートすると名誉埼玉県人」と書かれたPOPが印象的だ(写真:筆者)
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 5月後半になると参加店舗は30店舗に増加。テレビのバラエティー番組にも取り上げられるようになった。なお、スタンプラリーは6月30日に、好評のうちに終了した。

 目の覚めるような快進撃。しかし、その背景を探ると、長い間、苦境に立たされてきた家族経営店の事情が見えてきた。