本気のポテサラは料理人のハートに火をつけ、店と未来をつなぐ

 イベント当日、楠原さんはFacebookに下記の内容を投稿した。

\ ポテサラサミット2020を開催します /

 ポテサラサミットとは、和食・洋食・イタリア料理・串揚げ・韓国料理などなど、各ジャンル選りすぐりの名店、名シェフが本気で作ったポテトサラダを全種余すことなく食することを可能にしたポテサラ好きによるポテサラ好きのみなさまのためのポテサライベントです。

 ポテサラを提供していただくお店は、普段のメニューにポテトサラダがないことを条件にHOSTEL NAGAYADO OSAKAが自信を持ってオススメしたい大阪府下の飲食店より各ジャンル1店舗を選出させていただきました。

 場所はHOSTEL NAGAYADO OSAKAで、開催時間は午前11時より午後8時まで。ポテサラがなくなり次第終了。参加費2500円で13〜15種類のポテサラ盛り合わせとワンドリンクが付く。ボランティアも集まり、ポテサラの扱いをはじめ衛生管理を徹底し、密を避け、換気をまめにして運営された。

 参加店は、下記の実力店が名を連ねた(以下、五十音順、敬称略)。

イタリア料理の部「イタリア料理店 TAMANEGI」
未来店の部「うさぎ亭」
一般の部「おばんざい田中」
割烹の部「割烹たけだ」
カフェの部「KOMEICHI」
韓国宮廷料理の部「高麗橋はらはち」
中華料理 点心の部「茶酔楼 時ノ葉」
串揚げと燻製の部「TE kara TE」
パンと焼き菓子の部「ニコノパン」
無国籍料理の部「Bar&Guesthouse MONDO」
フュージョン・イノベーティブの部「LACERBA」
フランス料理・海外シェフの部「La Vigne」
洋食の部「洋食 Revo 靭公園店」

 ポテサラを美味しくいただくためのパン、そして新鮮な野菜を提供する趣旨で参加したお店は「パンの店 チャビ」と「八百屋さん ベジくるむ」。

 結果は参加人数60人あまりと、通常の感覚からすれば少なめだったが、感染対策をしながらだと考えれば上々の客入り。売上高については赤字を回避できるレベルは達成できた。

(写真撮影:ジルさん)
(写真撮影:ジルさん)
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 イベント後、楠原さんは大阪弁の語気を少し強めながらこう語った。

 「ほんまにポテサラって凄いと思いました。ポテサラは家庭料理なので誰でも作れる。でも出来上がってきたポテサラは、お店の個性そのものなんですよ。嫌がられるかもと思いながら『本気のポテサラを作ってほしい』と勇気を出して言って、本当に良かった(笑)」

 イベント参加者には、それぞれの店のショップカードを手渡した。すると、翌日、翌々日には早くも、「ポテサラがおいしかった」と感じた店を訪れて、SNSに料理や店の写真をアップする客が相次いだ。中にはイベントに参加しなかった人までが、投稿に触発されて店に行くケースも見られた。これからの街の消費を担う30代を中心とする若い世代が主である。

厨房で準備をするスタッフはタッパーで集められたポテサラを小さなカップに分け、盛り合わせにする。カップに添えられた木製のスプーンには店名が印字されている。感染対策にも細心の注意を払う(写真撮影:楠原陽子さん)
厨房で準備をするスタッフはタッパーで集められたポテサラを小さなカップに分け、盛り合わせにする。カップに添えられた木製のスプーンには店名が印字されている。感染対策にも細心の注意を払う(写真撮影:楠原陽子さん)
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 「ポテサラを食べてお店に興味を持ってもらって、若い世代が食べに行ってくれるのはうれしいです。一人が行ってSNSに投稿すると、それに続く人が現れるのも本当にうれしい」

 しかし、せっかく期待して店に来て、ガッカリされるという“事件”も起きたという。

 「事件起きました(笑)。一人のお客さんが、ポテサラサミットでエビチリポテサラがおいしかったからと、点心の専門店である茶酔楼 時ノ葉さんに行かれたんですが、メニューにエビチリがなくてめちゃくちゃ残念がってはって。でも、茶酔楼 時ノ葉さんは、イベント用のポテサラを作るだけのために、わざわざエビチリを作ったのだとわかって、逆に感動していました(笑)。ポテサラは料理人のハートに火をつけるんです(笑)」

 三軒長屋の3分の1の規模の小さな宿が行った小さなイベントは、新型コロナウイルスの影響で厳しい経営を強いられる飲食店にじわじわと着実な変化をもたらしている。

 「イベントから時間が経つと、どんどん良い余韻が広がっているのがわかります。お客さんが結構いろんな人を誘って、参加店に行ってくれたり勧めたりしてくれてはるみたいで。料理人さんも別の店が何を作ったかいまだに気にしてたり、新しいポテサラメニューを研究してる人もいる(笑)。このイベント、毎年やろうと思います。そして、みんなが自分の好きなポテサラを見つけて、そのお店に食べに行ってもらえたらうれしいです」

 たかがポテサラ、されどポテサラ。小さなポテサラが小さな場所から、厳しい時代を乗り越える勇気を発信する様子は実に痛快だ。そして、全国で同時多発的に同じような事例が起きているのに驚く。小さな場所からじわじわと世界を変える実話に引き続き注目したい。

筆者 須田泰成(すだ・やすなり)
1968年、大阪生まれ。コメディライター&プロデューサー。テレビ、ラジオ、WEBの番組やコンテンツの脚本、構成、プロデュース多数。「スローコメディ広告社」代表。20歳の時に世田谷区経堂へ。2000年に、経堂の個人店と文化を活性化するプロジェクト「経堂系ドットコム」を立ち上げる。WEB「みんなの缶詰新聞」編集長。「経堂経済新聞」編集長。著者に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、『蘇るサバ缶』(廣済堂出版)、絵本『きぼうのかんづめ』(ビーナイス)など。