愛媛県の居酒屋が始めた「走る!居酒屋」が好評だ。フードトラックで風通しの良い会社の敷地や公園などに陣取り、感染対策をしたうえで飲食を提供。コロナ禍でストレスが蓄積した人々の心を解きほぐし、この夏は毎日フル稼働。行く先々の人々を笑顔にする新しいビジネスについて取材した。

 愛媛県の県庁所在地・松山市といえば、四国最大の都市にして、道後温泉や松山城、夏目漱石の「坊っちゃん」などにちなむ文化遺産も多い有名観光地。同時に全国の主要企業の支店が多く、官公庁も立ち並ぶオフィス街。大きなアーケードが続く繁華街、松山銀天街・大街道や道後温泉の夜は県内外の人々でにぎわってきた。

 しかし、新型コロナウイルスの影響で、ホテルや飲食店は、2月以降どこも苦戦を強いられ、廃業も少なくない。そんな逆境の時期に「お客さまが動けないなら、こちらが動こう!」と、フードトラックによる出張居酒屋を始めたのが大政大祐さん。市内に居酒屋7軒を運営する株式会社 OVE Enterpriseの代表取締役だ。

大政さんが導入したフードトラック。夜は「走る!居酒屋」の名のごとく、屋外空間を使った居酒屋に変身。憩いと笑いの場を提供する(写真提供:大政大祐氏)
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 「4月の売り上げは85%減でした!」

 リモート取材でそう語る大政さんの声は、大変な状況にかかわらず、意外に明るい印象だった。

 デザインおよび制作も行う大政さんの飲食事業部「サムライダイニング」は、2004年から松山市内で展開。市内中心部の大街道エリアに4店舗、少し離れた道後温泉エリアに3店舗。それぞれがデザイン性の高い非日常空間で、地産地消の食材を使い、全国から取り寄せた日本酒や焼酎の数は800種類以上、器は愛媛県内の砥部焼にこだわる。

 「コロナ前の客層は、道後温泉エリアだと県内30%、県外70%と観光客の比率が高く、年齢層は20代から30代が中心。大街道エリアだと逆に県内が90%、県外が10%と地元客が多く、年齢層は20代から40代が中心。店舗によって厳密な年齢層は変わりますが、大街道エリアは基本的に団体客が多かったです。しかし2月末頃から怒涛のキャンセルが始まりました」

 そして、政府が緊急事態宣言を発令した2020年4月、売り上げが前年比85%減。創業以来最大のピンチを迎える。

 「リーマンショックの時と比べものにならない落ち込みです。85%減、つまり前年の15%というのは衝撃的な数字で、正直、頭を抱えました。でも、長く一緒にやってきた社員やスタッフのことを考えると落ち込んでばかりもいられない。子どもを抱える人もいますし。弊社の社是は『愛あるサービスで笑顔を創造する会社』なので、コロナ後の世界に合った、新しいビジネスを立ち上げないといけないと思いました」

 そこで急きょ始めたのが、コロナ前から着々と準備を進めていたフードトラックの活用だった。フードトラックは、松山市における本格的な人口減少、「ウーバーイーツ」などの料理宅配サービスの隆盛、家飲みや飲み会スルー(職場の飲み会に参加しないこと)の増加を踏まえて、大政さんが構想を練っていたものである。

 「お客さまが動けないなら、こちらが動こう!」と、2020年4月20日から稼働開始。大政さんは、このサービスに「走る!居酒屋」と名付けた。