希望の場所に現れる。ありそうでなかった未来の居酒屋

 最近特に増えているのは、夜の宴会予約だという。

 「『走る!居酒屋』の営業のメインは、企業や地域、親族、友人、サークルなどの集まりに合わせて利用していただく予約制の宴会です。飲食店は密になるし、知らない人と同じ空間になる可能性が高いので難しい。けれども、企業の敷地内や自宅の庭、駐車場といったゆったりした屋外空間で、しっかりとした感染対策をしながらであれば許容できる。気心の知れた仲間と飲んで食べて語らうのはやっぱり楽しい。今に合ったコミュニケーションの場を設けられるのでありがたい、という評価をいただいています」

「走る!居酒屋」を推進する大政大祐さん(OVE Enterprise代表取締役)(写真提供:大政大祐氏)
「走る!居酒屋」を推進する大政大祐さん(OVE Enterprise代表取締役)(写真提供:大政大祐氏)
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 あるメーカーは新人歓迎会に「走る!居酒屋」を利用した。天井の高い工場の敷地にフードトラックを停車させ、近くにテーブルと椅子をゆったり並べると、すぐに宴会場が完成。「社員たちが注ぎたてのビールと焼きたての肉などを楽しみながら親睦を深めることができた」と、社長からも高い評価を受けたという。

 「走る!居酒屋」は4万円以上の宴会案件から引き受ける。2時間~2時間半の飲み放題付きコースで、予算は人数によって変わるが4,000~5,000円が中心。「基本的にはお客様と綿密に打ち合わせをして決めていきます。割安感はあると思います」と大政さんは自信を見せる。

 「松山のような地方都市は東京や大阪などの大都市よりも土地の値段が安く、広い敷地が多いため、『走る!居酒屋』を展開しやすいのがメリットです。企業のゴルフコンペの打ち上げ、ビアガーデンなど、会社内に出店することも多いですし、一般の家でも庭や駐車場が広かったりする。道後のホテルの敷地で弊社がイベントを行ったケースもあります」

 以下は、「走る!居酒屋」の利用客から寄せられた喜びの声の一部である。

・居酒屋だと子どもが参加できないけど、これなら一緒に過ごせるからうれしい。
・遠いところに来てくれてありがとう。
・イベントのような感じがして楽しい!
・外で飲むので気持ちいいし、密を気にしなくていい。
・安すぎでしょ~!
・定期的に呼びます!

 それに加えて、この営業形態は厨房と客席の仕切りがなく、お互いの顔が見えるのが楽しくて刺激になるという。大政さんは「いろんなお客さまの声をダイレクトに聞けるのがビジネスとしてもありがたいです」と語る。

次の手も抜かりなく打つ

 サムライダイニングのリアル店舗の方は、2020年7月から回復基調に乗ったという。

 「今後、新型コロナの感染状況によってお客様の数が減ることもありえますが、頑張りたいと思っています。当社の売り上げ全体における『走る!居酒屋』のシェアはまだ15%程度ですが、これからの店舗展開はフードトラックを中心にしていこうと考えています」

 まずは松山市内におけるフランチャイズ展開を進める予定だ。運営の仕組みを確立し次第、他県への進出も視野に入れているという。「当社くらいの規模の飲食店さんはどこの地域でも苦しんでおられると思います。『走る!居酒屋』をツールとして利用していただければ」と大政さんは語る。

 大政さんは「走る!居酒屋」の第2弾として、「動く!空間」プロジェクトを進めている。今度はトラックの車体側面に大きな窓を設け、外の眺めを楽しみながら料理やドリンクを楽しめるようにする。この新型トラックは早ければ2020年11月にも走り始める予定という。

 顧客が希望する場所に店を開ける。店舗の立地が難しい山間部などにも出店可能。高齢者の多い僻地のコミュニティにも楽しい宴会を届けることができる。コロナの収束が見えず、暗いニュースが多い中、大政さんの「走る!居酒屋」は、まさにピンチをチャンスに変える事例。世の中の笑顔を増やす予感がひしひしとする。

筆者 須田泰成(すだ・やすなり)
1968年、大阪生まれ。コメディライター&プロデューサー。テレビ、ラジオ、WEBの番組やコンテンツの脚本、構成、プロデュース多数。「スローコメディ広告社」代表。20歳の時に世田谷区経堂へ。2000年に、経堂の個人店と文化を活性化するプロジェクト「経堂系ドットコム」を立ち上げる。WEB「みんなの缶詰新聞」編集長。「経堂経済新聞」編集長。著者に『モンティパイソン大全』など。