リノベーションスクールのユニットのメンバーに、のどか(仮名)という女の子がいました。彼女は草加にキャンパスを置く4年制大学の2年生で、大学寮に住んでいました。寮則は厳しく、その寮は基本的に2年生までしかいることができません。彼女は大学にも、大学のあるまちにも愛着があり、この近くで一人暮らしを始めたかったのですが、家賃は当然寮よりも高く、もう少し遠くに引っ越さないといけないと感じていました。

 また、彼女は近い将来、自分のお気に入りの小物やアンティークの店を開きたいという夢をもっていました。もし彼女のような学生が陶器店の2階に居候をして、オーナーのおばあさんとふたりで仲睦まじく暮らせたら、まちはなんてほのぼのした風景になるでしょう。スクールのメンバ―でそんな話をしていたら、のどかは「門限を気にせず、こんなまちの中心に住めたらうれしい。おばあちゃんがシャッターを開けるのも手伝えるし、アルバイトも探しやすい」と目をきらきらさせながら言いました。それを聞いた地元でカフェを経営するメンバーが、「それならうちでアルバイトすれば? 空いた時間、ピンポイントで入ってくれるだけでいいから。賄いの食事くらいつくってあげる。そういえばあそこの銭湯の掃除とかもしてみれば? 広いお風呂入れるかもよ」と持ちかけます。のどかは完全に『魔女の宅急便』の主人公キキになりきって、新しい生活に夢を膨らませました。

 高齢者の方が営む店舗の2階に大学生が移り住み、階下のお店のみならず、近隣商店の手伝いをしながら、お金の代わりにさまざまな恩恵を受ける。そういう学生たちが商店街を駆け巡りながら、事業やコミュニティを学び、地域経済に貢献する。おばあちゃんさえよければ、お店の一角でのどかの夢だった小物屋さんも始められるかもしれません。この仕組みがまちに広がって、すべての2階を若い魔法使いたちが占拠する。それがぼくたちの考えたまちの未来でした。

 物件はまずオーナーから「家守会社」が借り上げます。ユニットメンバーの一人に地元で工務店を営む男性がいたため、彼が内装工事費を一時的に負担し、入居後、家賃から少しずつ回収していくことに決めました。そうすることによって、オーナーの持ち出しはなくなります。代わりに家賃収入も入居後、数年先になります。(編集部注:「家守(やもり)」とは江戸時代に、地主や家主に代わって不動産の管理などにあたった差配人のこと。いま、まちづくりに取り組む「家守会社」が各地に誕生して、エリアマネジメントを担うケースが増えている)

 この計画のよいところは、店主と学生という血縁を超えた家族のような人間関係を築きつつ、卒業時にはおすすめの後輩を推薦するという持続的なルールがあることです。こんな暮らしを2年も続ければ、じぶんのまちに興味と愛着を持ち、歩くたびに知り合いとすれ違って、声をかけ合うような関係になることでしょう。大学を卒業するとき、先輩魔女は後輩魔女へ、オーナーとの暮らし方からまちでの稼ぎ方、楽しみ方まで、培った処世術を伝授し、自分はこのまちで学んだことを糧に、よりたくましく広い世界へと飛び立つことになります。

 まるで絵本のような、そんなまちが郊外にたくさんできてほしいと思います。

 この提案は、その後オーナーの都合により賃借することができなくなり、別の物件も探したのですが、のどかの退寮の時期に間に合わず、惜しくも実現できませんでした。けれどもこの仕組み自体は大きな可能性を持っていると思います。どこかで実現できないかな…。

■運営体制(リノベーションスクール時のもの)

■収支計画

家守会社の収支計画
項目 金額(千円) 概要
1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目
収入 仲介賃貸料 480 480 480 480 480 480 48 6年間:家賃4万円/月(建物オーナーへの賃借料は免除)
7年目以降:管理費4千円/月
工事費出資金 2,000 0 0 0 0 0 0
収入合計 2,480 480 480 480 480 480 48
支出 改修工事費 2,000 0 0 0 0 0 0
人件費 0 0 0 0 0 0 0
出資配当金(月次返済) 420 420 420 420 420 420 0 3.5万円/月
支出合計 2,420 420 420 420 420 420 0
累計利益 60 120 180 240 300 360 408

※家守会社は6年間で出資金を返済し、7年目以降は管理費のみ徴収。建物オーナーは7年目以降に家賃収入を得る。

筆者 三浦丈典(みうら・たけのり)
1974年東京都生まれ。早稲田大学卒業、ロンドン大学バートレット校ディプロマコース修了、早稲田大学大学院博士過程満期修了。2001年〜2006年までNASCA勤務。2007年設計事務所スターパイロッツ設立。
大小さまざまな設計活動やまちづくりに関わる傍ら、シェアオフィスや撮影スタジオなど、自ら経営や運営にも携わる。
「道の駅FARMUS木島平」で2015年グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)。著書に「起こらなかった世界についての物語」、「こっそりごっそりまちをかえよう。」など。