ぼくたちの提案は、スタッフやサービスをすべて自社で賄うのではなく、韓国からアドバイザーを迎えつつも、近隣のお年寄りや既存施設をうまく連携しながら、まちぐるみで運営していくアルベルゴ・ディッフーゾ(分散型ホテル)の産後ケア版、というものになりました。そしてそれを新たに「門司港式産後ケア」と定義しました。近隣の産婦人科院や助産院と提携することで、この施設では医療行為は行わず、かつこれを契機に近隣のお年寄りも最新のさまざまなケア技術を習得して、いきいきと働いてもらうことになります。

 産後間もないママたちはまずはゆっくり部屋で体を休め、すこし動けるようになれば近所の坂道を散歩しながらトレーニング。初めて子どもを授かったママたちのために、授乳や育児のさまざまな知識も専門家から安心して得ることができます。ヘアカットなどのサービスも受けられます。同じ時期に出産したママ同士も、一つ屋根の下で自然と交流が生まれるでしょう。週末に家族が面会に来た時は門司港の瀟洒(しょうしゃ)なレストランに行ってもいいかもしれません。そしてこのまちで子育てを始めた家族が、もしかしたらこの地を気に入って居を構えるかもしれません。

 この構想は大きな共感と期待を得ましたが、運営主体となる人材がどうしてもユニット内で見つからず、実現には至りませんでした。けれども「産後ケア施設」は国内でも注目を浴び、現在各地でスタートしつつあります。

 子育て環境を見直そう、血縁を超えて育児を共有していこう、という時代の変化を感じ取れば、この物件、このエリアはまったく別の、大きな可能性を秘めているのです。かつて交通の拠点としての価値を失った時に門司の人々が知恵を絞って考え、実行に移したことを、ぼくたちはもう一度チャレンジしないといけないのです。でもそれは大袈裟なことではなく、たとえ大規模な敷地や投資がなくとも、その価値が分かる人、その価値を必要としている人を探すだけでいいのです。

 それがぼくたちの考えるリノベーションまちづくりです。

■運営体制(リノベーションスクール時のもの)

事業会社の収支計画

項目 金額(千円) 概要
収入 客室・産後ケアサービス利用料 8213 1万2500円/室×3室×365日×想定稼働率60%
収入合計 8213
支出 建物賃借料 400 40万円/年
人件費 3000 スタッフ×8人
広告宣伝費 120 ウェブサイト運営費1万円/月
飲食費 986 1500円/室×3室×365日×想定稼働率60%
その他サービス費 329 500円/室×3室×365日×想定稼働率60%
水道・光熱費 360 3万円/月
支出合計 5195
年間利益 3019

※初期投資として、建物改装費1500万円。5年で回収を想定。

筆者 三浦丈典(みうら・たけのり)
1974年東京都生まれ。早稲田大学卒業、ロンドン大学バートレット校ディプロマコース修了、早稲田大学大学院博士過程満期修了。2001年〜2006年までNASCA勤務。2007年設計事務所スターパイロッツ設立。
大小さまざまな設計活動やまちづくりに関わる傍ら、シェアオフィスや撮影スタジオなど、自ら経営や運営にも携わる。
「道の駅FARMUS木島平」で2015年グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)。著書に「起こらなかった世界についての物語」、「こっそりごっそりまちをかえよう。」など。