静岡県東伊豆町では2014年から、芝浦工業大学の学生が空き家状態の町有施設を改修するプロジェクトを続けている。「ほとんど利用されなかった」という第一弾の反省を基に東伊豆町は、町民が利用方法を議論する場を立ち上げ、初代の学生は運営に携わった。学生自身も、代替わりしながら「つないでいく」大切さを意識している。

 伊豆半島の東岸に位置する静岡県東伊豆町は、太平洋と山に挟まれ、いくつもの温泉郷と海の幸・山の幸に恵まれた人口1万2,000人弱の町だ。2021年秋、そんな町の山上にある「稲取ふれあいの森」に、20人以上の学生が集まった。芝浦工業大学の学生グループ「空き家改修プロジェクト」のメンバーが、木造平屋建ての管理棟の改修工事を進めている。

「稲取ふれあいの森」管理棟(写真:守山 久子)
「稲取ふれあいの森」管理棟(写真:守山 久子)
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稲取ふれあいの森から太平洋を望む。眼下に、伊豆急行伊豆稲取駅周辺のまちなみが広がる(写真:守山 久子)
稲取ふれあいの森から太平洋を望む。眼下に、伊豆急行伊豆稲取駅周辺のまちなみが広がる(写真:守山 久子)
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 東伊豆町では2014年以来、芝浦工業大学の学生が空き家状態になった町有施設の再生に関わってきた。2021年度は、長く放置されてきた管理棟を対象とする「山の家改修プロジェクト」に取り組む。「学生の滞在拠点やシェアオフィスとなる空間に生まれ変わらせる」(川村寛樹氏:空き家改修プロジェクトの稲取設計室長を務める学部3年生)という計画だ。

 既存建物の躯体(くたい)や大枠の間取りはそのままに、小上がりの集会室、キッチンが隣接する土間のダイニングなどに再構成する。2021年春から現場の片付けを始め、春から秋にかけて計3回、1週間泊まり込んで改修工事を進めてきた。今回は学園祭の休みを利用した2泊3日の作業で、さらに2022年2月に、1週間滞在して仕上げる予定だ。

 この日は什器(じゅうき)の塗装やウッドデッキの補修などに取り組んでいた。3年生が中心となってチームに分かれ、それぞれの分担箇所を作業する。木材をカットする工具などは東伊豆町や町民から借りたもの。棚の納まりがうまくいったと納得顔の学生もいれば、黙々と木の表面にやすりをかける学生もいる。

 一般に、建築学科の学生は図面や模型の作成は手慣れていても、実際に使われる建物の施工を手掛ける経験はほとんどない。何人かの1年生に同プロジェクトへ参加した動機を聞くと、「直接施工できるのが魅力的」などと話してくれた。

芝浦工業大学の空き家改修プロジェクトのメンバー。前列左から2人目が稲取設計室の川村寛樹室長(写真:守山 久子)
芝浦工業大学の空き家改修プロジェクトのメンバー。前列左から2人目が稲取設計室の川村寛樹室長(写真:守山 久子)
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作業中の山の家改修プロジェクト「集会室」(写真:守山 久子)
作業中の山の家改修プロジェクト「集会室」(写真:守山 久子)
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10人の仲間から出発し60人超の大所帯に

 山の家は、空き家改修プロジェクトが東伊豆町で手掛ける4つ目の建物だ。

 始まりは、2014年だった。「自分たちで空き家を改修してみよう」。当時、修士1年だった森本健介氏が仲間に呼びかけ、10人で「空き家改修プロジェクト」を立ち上げた。まちづくりを専攻する森本氏が以前インターンシップで訪れた東伊豆町に提案したところ、町長の賛同を得ることができた。東伊豆町は、長く使っていなかった水下地区の小さな集会所を提供し、学生たちが改修の設計と施工に取り組んだ。

 「9畳ほどの小屋の内側に小さな木造のボックスを置いて、人が集まる場にしようと考えました。ボックスをつくる際には、自分たちでも扱いやすいツーバイフォー材を駆使しています」。施工に参加した荒武優希氏(2014年当時、建築専攻の修士1年)はそう振り返る。

 東伊豆町から建物の提供を受けたが、あとは学生がほぼ自力で賄った。改修資金は芝浦工業大学の支援制度を利用。同大学には、社会貢献などに取り組む学生グループの活動に最大50万円の資金を提供する「学生プロジェクト」という制度があるのだ。空き家改修プロジェクトはこれに申し込んで採択され、50万円近い資金を得ることができた。

 建物は「水下庵」として完成。修士2年になった立ち上げメンバーは、新たな仲間を募集して次年度も空き家改修に取り組んだ。2年目以降は対象地域を3ヵ所に増やし、それぞれに設計室を設けてプロジェクトを進めた。2016年10月には、賢者屋(東京都新宿区)が主催する「学生団体総選挙」で総合グランプリを受賞し、50万円を獲得。その後も下の学年が引き継ぎながらプロジェクトを続け、現在は学部3年生を中心に60人以上の大所帯となっている。

 他の二つの設計室はプロジェクトごとに地域を変えるが、東伊豆町の「稲取設計室」は同じ地で継続的に活動を続けてきた。2年目の2015年度には、東伊豆町消防団第六分団の器具置き場を「ダイロクキッチン」というシェアキッチンに改装。2016年度から2019年春にかけては、東海汽船チケット売り場などの入る町有施設を展示スペースやシェアオフィス&ファブスペース「EAST DOCK」に再生させた。

ダイロクキッチンの外観。イベントや起業希望者のショップなどに利用している(写真:守山 久子)
ダイロクキッチンの外観。イベントや起業希望者のショップなどに利用している(写真:守山 久子)
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海に面したEAST DOCK外観。2階がシェアオフィスになっている(写真:守山 久子)
海に面したEAST DOCK外観。2階がシェアオフィスになっている(写真:守山 久子)
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シェアオフィス。年間会員のほか、ボランティアの大学生をはじめ町外から訪れる人が主に利用する(写真:守山 久子)
シェアオフィス。年間会員のほか、ボランティアの大学生をはじめ町外から訪れる人が主に利用する(写真:守山 久子)
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EAST DOCK2階のファブスペース(写真:守山 久子)
EAST DOCK2階のファブスペース(写真:守山 久子)
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 2019年度は、町内にある民間の空き家を見学して回り、その活用方法を提案する「東伊豆未来会議」に参加。その後、コロナ禍による2020年度のひと休み期間を経て、2021年度の「山の家改修プロジェクト」につなげた。