京都市に本社を構える不動産会社の八清(はちせ)は、京町家の買い取り再販で多数の実績を持つ。京町家ならではの良さを引き出す改修を施す一方で、古家の持つ弱点を補い、安心を確保する仕組みを整えてきた。新築住宅とは異なる土俵の構築だ。

 京都市内の町家を改修し、ゲストハウスやシェアハウスなどに活用した事例の話題をよく耳にする。しかし京都市内の町家全体を見ると、数の減少や空き家化といった傾向が続く。京都市などが実施した「京町家まちづくり調査に係る追跡調査」によると、2008・2009年度に京町家は47,735軒あったが、2016年度には1割以上に当たる5,602軒が減失した。一方で、2008・2009年度に5,002軒だった京町家の空き家は約17%増えて5,834軒を数えた。

 そうした状況のなか、京町家を改修して次の利用者に受け渡す事業を積み重ねているのが、京都市下京区に本社を構える不動産会社の八清(はちせ)だ。累計で500棟に及ぶ京町家を再生してきた。「改修に力を入れている。これまでの経験を踏まえて『この改装ならこの価格で売れる』と判断し、コスト設定している」と八清の西村孝平取締役会長は話す。

「道楽町家(DO-RAKU MACHIYA)」のLDK。大きな窓を介して庭と一体化する(写真提供:八清)
「道楽町家(DO-RAKU MACHIYA)」のLDK。大きな窓を介して庭と一体化する(写真提供:八清)
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「道楽町家(DO-RAKU MACHIYA)」の書斎(写真提供:八清)
「道楽町家(DO-RAKU MACHIYA)」の書斎(写真提供:八清)
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 2021 年4月に改修した「道楽町家(DO-RAKU MACHIYA)」を見てみよう。市街地北部の住宅街に立地する2階建て。大学の教授などが居住することをイメージし、本棚やカウンターデスクを作り付けた書斎を設けているのが特徴だ。

 建物は、間口が狭く奥行きが長い敷地に合わせて、南北方向に細長い平面形状を持つ。1階の中央に、キッチンと造作ベンチを備えた12畳(約20m2)のLDKを配置した。LDKは大きな掃き出し窓を通して木製テラスのある庭と一体化し、3畳弱(約5m2)の細長い書斎が庭沿いに延びる。ベンチなどの横に立ち上がる木の格子壁は、耐震壁の役割を果たしている。

 2階は既存の天井をはがして梁を露出させ、和室と洋室を並べた。床の一部を透明な素材で仕上げ、1階のLDKに光を落としている。「京町家は細長い間取りになっているので、室内の風通しや日の入り方を確保するようにいつも工夫している」(西村会長)。建物のファサード(外観正面のデザイン)には縦格子を施し、道路に面した木製引き戸と玄関の間には坪庭付きの小さなアプローチを配した。町家を特徴付ける要素を家全体に織り込みつつ、現代生活を楽しめる機能を付加している。

「道楽町家(DO-RAKU MACHIYA)」のLDK。2階の透明な床を通して光が差し込む(写真提供:八清)
「道楽町家(DO-RAKU MACHIYA)」のLDK。2階の透明な床を通して光が差し込む(写真提供:八清)
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「道楽町家(DO-RAKU MACHIYA)」南側外観。木製引き戸の奥に玄関へのアプローチが続く(写真提供:八清)
「道楽町家(DO-RAKU MACHIYA)」南側外観。木製引き戸の奥に玄関へのアプローチが続く(写真提供:八清)
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古い建物の「経年美」を評価

 一般に町家は、伝統構法で建てられた町中の木造家屋を指す。京都市ではさらに細かく「京町家」を定義し、その保存と継承に力を入れてきた。条件は、1950年以前に伝統軸組構法で建てられた木造建築物であること、3階建て以下の戸建てや長屋であること、切り妻屋根などの棟と平行する側が玄関となる「平入り」であることなどだ。

 八清の京町家再生は、所有者から土地と建物を買い取り、改修を施して販売するという流れで進む。同社の取り組みを見て気付くのは、二つの特徴だ。一つは新築住宅とは異なる京町家の良さを引き出していること、もう一つは古い建物の弱点を補完して不動産市場に乗せる仕組みを構築していることだ。

 前者のために、まず買い取り査定時には町家の価値を金額に反映させる。「一般には30年もたつと建物の不動産価値はなくなってしまう。私たちは京町家の希少性や歴史的、文化的な価値を踏まえ、経年劣化した建物であっても補修することを前提に建物としての価値を評価する。丁寧にメンテナンスしながら使い込んだものは、新築住宅では得られない『経年美』がある。箱階段や型板ガラスなど、手の込んだ古いものを評価して極力残す。それが京町家のブランド力に結び付く」(西村会長)。

「三井寺のそばの大津町家」(2019年6月改修)。手の込んだ欄間や型板ガラスの引き戸を活用している(写真提供:八清)
「三井寺のそばの大津町家」(2019年6月改修)。手の込んだ欄間や型板ガラスの引き戸を活用している(写真提供:八清)
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「大正の面影薫る京町家」(2019年8月改修)。ステンドグラスの窓が印象的だ(写真提供:八清)
「大正の面影薫る京町家」(2019年8月改修)。ステンドグラスの窓が印象的だ(写真提供:八清)
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 町家の良さを生かした改修に欠かせないのが、企画や設計の工夫だ。同社では、9人いるプロデューサーが企画、設計から販売まで“一気通貫”で担当している。設計事務所と組んで、あるいは建築士の資格を持つプロデューサーは自身で、設計プランを検討する。仕入れた建物の特徴や立地特性を踏まえて入居者像を描き、純和風やモダン和風、大正時代風といった多様なデザインの空間に変容させる。庭や土間など町家らしい要素を生かしつつ、高齢の夫婦の入居を想定した住宅では2階にもトイレを設置するなど、使い勝手にも配慮する。

 「最大公約数をねらったプランばかりでは新築分譲住宅と変わらない。大切なのは町家の良さを生かした空間づくりだ」と西村会長は話す。プランを検討する社内会議では、担当者の提案を無下に却下する発言はしないという。出来上がった建物の評価は、完成見学会に訪れた人の反応や販売状況で明らかになるので、担当者も真剣だ。ブレーキをかける発言で担当者の意欲を低下させるより、前向きなアイデアを引き出す土壌づくりを西村会長は重視する。

「リビングが広がる家」(2020年4月改修)。LDKの床を一段下げ、外部の木デッキと連続させている(写真提供:八清)
「リビングが広がる家」(2020年4月改修)。LDKの床を一段下げ、外部の木デッキと連続させている(写真提供:八清)
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「三井寺のそばの大津町家」では土間を生かした(写真提供:八清)
「三井寺のそばの大津町家」では土間を生かした(写真提供:八清)
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モダンな空間に一新させた「アトリエに暮らす」(2019年8月改修)(写真提供:八清)
モダンな空間に一新させた「アトリエに暮らす」(2019年8月改修)(写真提供:八清)
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「文のいおり」(2019年11月改修)。和モダンのテイストで室内をまとめた(写真提供:八清)
「文のいおり」(2019年11月改修)。和モダンのテイストで室内をまとめた(写真提供:八清)
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