再建不可の京町家も融資対象

 町家には独自の魅力がある一方で、建物の古さは木材の劣化や耐震性・断熱性などの弱さにも結び付く。八清はこうした面に対処し、「可視化」する仕組みを整えてきた。

 改修に際しては、劣化があれば根継ぎ(建物の柱の下部の腐った部分を新しい材に取り替えて補強すること)などで対応し、既存の構造躯体の状態を確認して必要に応じて補強する。社内スタッフを対象に構造補強マイスターの資格を設け、構造補強マイスターが構造躯体の確認や工務店への補強指示を行う体制を取っている。工事完了後は第三者機関によるインスペクション(建物状況調査)を全棟で実施し、購入者に報告書を渡す。

工事風景。建物をスケルトン状にし、必要に応じて構造躯体の取り替えや補強を実施する(写真提供:八清)
工事風景。建物をスケルトン状にし、必要に応じて構造躯体の取り替えや補強を実施する(写真提供:八清)
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既存建物のチェック風景(写真提供:八清)
既存建物のチェック風景(写真提供:八清)
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 ただ、こうした改修を施しても、現在の指標に基づく性能面では新築住宅と同等にならない。そもそも、地震の揺れを柔らかく吸収する伝統構法と、面をがっちり固めて地震に対抗する現代の工法では構造の考え方が異なる。「実際に町家を探している人は、高い性能を第一に求めてはいない。それでも新築住宅と同等のスペックは備えていない点を事前に伝えておくことが重要で、書面にも明記している」(西村会長)。

 町家の持つもう一つの難しさは、活用方法に制約があることだ。建築基準法が誕生した1950年より前に完成した建物は通常、現行法規を満たしていない「既存不適格建築物」に当たる。幅員4mの前面道路に面していない町家は再建ができない。それ以外の場合でも、建築確認申請を要する増築や改修をする際には現行法規に適合させる必要がある。八清では原則、申請不要な範囲で適法な改修を施している。

 こうした制約は、金融機関が融資をしない理由にもなっていた。しかし京都市では、2011年に京都信用金庫が始めた京町家専用住宅ローン「のこそう京町家」を皮切りに、複数の地元金融機関が京町家専用の融資を実施している。いずれも、京都市景観・まちづくりセンターが発行する「京町家カルテ」または「京町家プロフィール」を取得することを条件に、再建不可の京町家でも融資対象となる。京町家カルテは、外観調査に基づきその町家の意匠要素や時代背景、劣化状況、間取り図などをまとめたものだ。京町家プロフィールは、外観情報に特化した京町家カルテの簡易版に当たる。

 同センターの賛助会員でもある八清は、こうした仕組みづくりを後押ししてきた。「ローンができる前、町家には担保価値があることを金融機関に訴え続け、売れることを実証してきた。時間はかかったが、実績を積み重ねたことで担保価値を認められるようになった」と西村会長は振り返る。

旅館やシェアハウスも展開

 1956年に創業した八清は、1960年代から不動産業に進出して建売分譲や注文住宅、マンション建設などを幅広く扱ってきた。現在は「中古住宅の再生販売」と「売買仲介・賃貸斡旋」の売り上げ比率が7対3程度という。1950年以降に建てられた中古住宅の再生販売も扱うが、主軸に据えるのは京町家だ。このほか新築事業や賃貸事業も手掛けている。

 現在への分岐点になったのが、1999年に第1号を完成させ、2002年に商標登録した「リ・ストック住宅」の事業だ。

 新築とは異なる「中古住宅の再生」という新しい分野に手応えを得た八清は、その後、マンションや単身女性向けなどさまざまなジャンルやターゲットに向けたリ・ストック住宅を展開していく。「その中で特に反響が大きかったのが、2001年に初めて手掛けた町家だった。在来住宅のリノベーションは新築住宅と競合するため、丈夫さ、耐久性、省エネといった面での不利さは否めない。その点、町家は競合相手が少ないのが強みだ」(西村会長)。

 以降、町家の事業を拡大し、貸家経営に向けた「京貸家」、旅館業法の許可を取得した「京宿家」、シェアハウスの「京だんらん」などを相次いで打ち出した。もともとは地元対象の事業だったが、土地や建物の価格高騰に伴い、京都市外の顧客にも目を向けるようになった。購入者の7割は関東圏や海外など京都市以外の居住者だ。新型コロナ禍以前は購入者の2割を外国人が占めていたため、営業担当3人のグローバルチームで海外の顧客に対応している。インターネットでの情報発信の充実に伴い、今では問い合わせの9割以上がインターネット経由となっている。

箱階段を残した「京宿家 新道さくら庵」(2011年10月改修)(写真提供:八清)
箱階段を残した「京宿家 新道さくら庵」(2011年10月改修)(写真提供:八清)
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 京町家の動向にも変化はある。現在は店舗系の需要が少なく、セカンドハウスを含めた居住物件のニーズが大きい。市場に出てくる町家の数が減り、一時は八清が手掛ける物件の8〜9割を占めていた町家の比率は6割程度になっている。「不動産業者だから、手掛ける対象は町家でも在来木造でもかまわない。でも町家のほうが良い材を使っている家などもあって面白く、改修のしがいがある」。そんな一言に、町家に対する西村会長の思いが透けて見えた。

八清の西村孝平取締役会長(写真:守山 久子)
八清の西村孝平取締役会長(写真:守山 久子)
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