山形県の南東部に位置する上山(かみのやま)市は、温泉地としても知られる羽州街道沿いの城下町だ。同市では、官民で立ち上げたNPO法人「かみのやまランドバンク」が、柔軟な発想で空き家・空き地の活用に取り組み、まちの活性化を図っている。地域の子どもや学生たちを巻き込み、まちづくりの担い手を育てる「種まき」という重要な役目も担う。

 午前11時から午後2時までの「そばタイム」と、午後2時半から10時までの「カフェタイム」。それぞれ工夫を凝らしたメニューを提供するカフェ「harappa」が2021年5月2日、山形県上山市にオープンした。山形新幹線が停車するまちの玄関口、JRかみのやま温泉駅の目の前に立地する。

 磨いた土間床にテーブル席がゆったり並び、カウンターや柱に施した横張りの木が店内に温かみを与えている。くつろげる雰囲気の空間は、空き家だった土産物店の一部を改装したものだ。そば部門担当の中島いづみさんとカフェ部門担当の齋藤貴将さんが分担して出店し、資金のうち100万円超をクラウドファンディングで集めた。

カフェ「harappa」の外観。旧土産物店の建物の一部をカフェにした。カフェの2階部分は住宅に改装し、建物の奥に続く空きスペースは現在、イベントなどに利用している(写真:守山 久子)
カフェ「harappa」の外観。旧土産物店の建物の一部をカフェにした。カフェの2階部分は住宅に改装し、建物の奥に続く空きスペースは現在、イベントなどに利用している(写真:守山 久子)
[画像のクリックで拡大表示]
harappaの店内。板張り部分は塗装組合の協力の下、大学生や子どもたちがボランティアで塗装した(写真:守山 久子)
harappaの店内。板張り部分は塗装組合の協力の下、大学生や子どもたちがボランティアで塗装した(写真:守山 久子)
[画像のクリックで拡大表示]

 2人の出店に際し、さまざまな面からサポートしたのがNPO法人「かみのやまランドバンク」だ。2019年6月、空き家や空き地の利活用を目的に官民学で立ち上げた。市内で不動産業を営む渡辺秀賢氏が理事長を務め、副理事長には上山市と協定を結ぶ明海大学の小杉学・不動産学部准教授と、上山市の鏡昌博・建設課副主幹兼エリアマネジメント推進係長が就く。NPOのメンバーには、建築士や司法書士、土地家屋調査士など異なる立場の専門家が参画している。

 「まち再生の取り組みを動かしていくには行政をしっかり組み込むことが大切だ。ただし、社会実験などの試行錯誤は行政では難しい。かみのやまランドバンクは、民間の行動力と行政の信頼性を生かしつつ、興味と心意気を持つ人だけが集まって自由で柔軟な活動をめざす」と渡辺理事長は話す。

 harappaに対しても、かみのやまランドバンクはきめ細かな支援を試みた。市が打診して、建物の所有者から「まちのためなら自由に使っていい」という承諾を得て、かみのやまランドバンクが建物を借り受け、その一部を出店者にサブリースした。

 店づくりの過程では、ハードとソフトの両面から出店者をサポートした。内装は、かみのやまランドバンク側で設計を担当。地元の山形大学の学生や地域の子どもたちを集め、ボランティアで塗装仕上げを手伝ってもらうイベントを実施した。資金面では上山市の補助金を紹介し、クラウドファンディングの提案も行った。また、そばタイムの人気メニューの一つ「バジルそば」のメニュー開発にも協力した。出店者の一人である中島さんは「地域の人とも結び付けてもらうなど、多様な面から相談にのってもらえてとても助かった」と振り返る。

そば部門を担当する中島いづみさん(右)とカフェ部門担当の齋藤貴将さん。山形市に住む中島さんは、上山市に住む娘のつてでかみのやまランドバンクを紹介してもらった。カフェタイムにはスフレパンケーキなどを提供する(写真:守山 久子)
そば部門担当の中島いづみさん(右)とカフェ部門担当の齋藤貴将さん。山形市に住む中島さんは、上山市に住む娘のつてでかみのやまランドバンクを紹介してもらった。カフェタイムにはスフレパンケーキなどを提供する(写真:守山 久子)
[画像のクリックで拡大表示]

市と民間が「本気」で空き家対策

 上山市の中心市街地は、上山城郷土資料館を取り巻くように温泉街や武家屋敷が点在し、城下町ならではの屈曲した路地がこれらを結ぶ。情緒あるたたずまいが残っている半面、敷地の面積や道路幅が狭く、車利用を前提とする現代のニーズに対応しきれていない課題を抱える。人口3万人弱の市内には485戸の空き家があり(2021年3月現在)、そのうち約15%が上山城を中心とした半径約300m圏の中心市街地に存在している。

中心市街地にある二つの温泉街をつなぐ武家屋敷通り。右手に見える築90年の古民家を利用した飲食店は、上山市が運営者に物件を紹介した
中心市街地にある二つの温泉街をつなぐ武家屋敷通り。右手に見える築90年の古民家を利用した飲食店は、上山市が運営者に物件を紹介した
[画像のクリックで拡大表示]

 上山市はこうした状況を背景に、かみのやまランドバンクの設立以前から空き家対策に取り組んできた。2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づいて2016年11月に空き家バンクを立ち上げた。同市は創設に当たって、当時、山形県宅地建物取引業協会山形の理事を務めていた渡辺氏に協力を求めた。

 このとき渡辺氏が問いただしたのが、市の「本気度」だった。「民間の不動産業事業者にとって、空き家は扱いたくない物件だ。物件調査などに時間と費用がかかるのに、手数料を得るのもままならない。空き家対策の必要性は分かるが、市が本気で取り組まなければ協力はしない」。渡辺氏の投げかけに対して市側も本腰で取り組むことを伝え、両者の二人三脚が始まった。

 上山市は、空き家の所有者へのアンケートなどを通して現状と課題の把握に努め、渡辺氏は市が当初求めた「2年で50~60件の空き家登録」を実現させた。2021年7月時点で、ホームページ上で90件を超える事例を公開しており、その過半が契約済みとなっている。住宅だけでなく、店舗や工場など対象の用途を限定していないのが特徴だ。

 並行して市は、空き家に関わる課題を一つずつつぶしていくための方策を進めた。まずは相続の推進だ。「転売するには、残された人が相続している必要がある。しかし、空き家の半数が相続されていない状況が分かった」と、上山市の鏡氏は振り返る。そこで2017年10月に山形県司法書士会との連携協定を結び、相続手続きに関する無料相談会を始めた。

かみのやまランドバンクの渡辺秀賢理事長(左)と、副理事長を務める鏡昌博・上山市建設課副主幹兼エリアマネジメント推進係長(写真:守山 久子)
[画像のクリックで拡大表示]
かみのやまランドバンクの渡辺秀賢理事長(左)と、副理事長を務める鏡昌博・上山市建設課副主幹兼エリアマネジメント推進係長(写真:守山 久子)
[画像のクリックで拡大表示]
かみのやまランドバンクの渡辺秀賢理事長(左)と、副理事長を務める鏡昌博・上山市建設課副主幹兼エリアマネジメント推進係長(写真:守山 久子)

 また、空き家の流通を促すために、家財類の処分を対象とする上限5万円の補助金制度を立ち上げた。空き家所有者の2~3割が県外に在住している現状を受け、上山市商工会やシルバー人材センターと連携して空き家管理の事業も開始した。

 2018年には、山形県・上山市・東北芸術工科大学・山形県すまい・まちづくり公社の4者で「地域づくり連携協定」を結び、空き家再生リノベーション事業に取り組んだ。中心市街地から少し南に下った地区の空き家を公社が買い取り、子育て世代向けの平家住宅に改修して再販した。上山市が県外在住の所有者との間に入って調整し、東北芸術工科大学がデザイン監修を担っている。

 「こうした積み重ねを通して、空き家の維持管理から利活用までの流れの概略を把握できた。次のステップとして考えたのが、空き家対策と中心市街地の活性化を合わせたランドバンク事業だった」(鏡氏)。先行事例を持つ山形県鶴岡市を渡辺氏らと訪問して仕組みを研究し、2019年6月、かみのやまランドバンクの設立にこぎつけた。