芝張りをして空き地を暫定利用

 かみのやまランドバンクの主な役割は大きく二つある。空き家バンクや2019年7月に始めた住み替えバンクの運営と、ランドバンク事業だ。

 ランドバンク事業とは、複数の空き家・空き地を一つに統合し、狭い道路の拡大などを伴うミニ区画整理を行うもの。上山市は2020年3月に第2期空家等対策計画を策定し、重点地域として中心市街地を「ランドバンクエリア」に設定した。市の空き家バンクに登録した同エリア内の土地や家を対象に、市がかみのやまランドバンクに利活用方法の検討を委託し、事業を進めていく。

上山市のランドバンクエリア。城を中心とした半径300m圏が中心市街地となる(資料:上山市作成の図に加筆)
上山市のランドバンクエリア。城を中心とした半径300m圏が中心市街地となる(資料:上山市作成の図に加筆)
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 ただし、ランドバンク事業を実施するには、ある程度まとまった規模の空き地が必要となる。その前段階の事業として、かみのやまランドバンクが取り組んできたのが個別の空き地の暫定利用だ。

 2019年、かみのやま温泉発祥の湯町にある空き地を「ワクワク広場」として整備した。ボランティアを募り、所有者から借りた空き地に芝を張り、その後の維持管理を担う。広場ではマルシェなどのイベントを随時開き、空き地の状態では得られないにぎわいを生み出していく。

湯町のワクワク広場。マルシェなどのイベントを開いている(写真:守山 久子)
湯町のワクワク広場。マルシェなどのイベントを開いている(写真:守山 久子)
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 翌2020年度には、湯町の西側に延びる武家屋敷通りの奥に、第2弾となる八幡丁ワクワク広場をつくった。地元の子どもや渡辺氏の母校である明海大学の学生に参加してもらって細長い敷地の半分に芝を張り、木製デッキを設置した。食事などもできるイベントスペースとし、残りの半分は砂利を敷いた駐車スペースに利用する。ここでは、市が所有者から寄付を受けた土地をかみのやまランドバンクに無償で貸与した。2020年4月に上山市は条例を改正し、公共性が高くかみのやまランドバンクが認めた場合に、ランドバンクエリア内の空き家や空き地を市に寄付できる仕組みを整えていた。

木製デッキを設けた八幡丁ワクワク広場。駐車場も整備(写真:守山 久子)
木製デッキを設けた八幡丁ワクワク広場。駐車場も整備(写真:守山 久子)
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八幡丁ワクワク広場の芝張りイベント。国交省「ランドバンク活用等のモデル調査」の補助金を利用した(写真提供:上山市)
八幡丁ワクワク広場の芝張りイベント。国交省「ランドバンク活用等のモデル調査」の補助金を利用した(写真提供:上山市)
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駅と温泉地を結ぶ回遊ネットワークが生まれる

 「設立からの2年間で種まきをしてきた。今はその一部が実り始めてきたところ」と渡辺理事長は表現する。冒頭で紹介したカフェに続き、空き家に関する複数の事業が具体化している。

 まず、カフェの開業から1ヵ月後の2021年6月には、閉館したまま放置されていた旧映画館「トキワ館」の建物を解体した。JRかみのやま温泉駅方面から温泉街の間をつなぐ新湯通りに面したこの建物は老朽化が進み、2020年9月に上山市が「特定空家等」に認定していた。この「特定空家等」とは、放置すると危険なことや著しく景観を損なっていることなどを条件に市町村が指定するもので、市町村長による除却や修繕の命令などが可能になる。

 トキワ館では建物と土地の所有者が異なっていたため、かみのやまランドバンクが建物所有者から許可を得て、上山市と国の補助金を利用して解体を実施した。土地は別途、所有者から借りて今後の利用を検討する。現在は暫定利用でマルシェの開催などを計画している。

トキワ館の解体跡地(写真:守山 久子)
トキワ館の解体跡地(写真:守山 久子)
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 もう一つ、2022年4月のオープンをめざして進めているのが共同浴場「澤の湯」の改修だ。かみのやま温泉には、観光客向けの温泉旅館やホテルのほかに、地元密着型の共同浴場が複数ある。旧トキワ館から徒歩5分ほどの距離にある澤の湯はその一つだったが、利用者の減少に伴って、2020年3月に閉鎖していた。

 かみのやまランドバンクは建物と温泉権を上山温泉利用協同組合から買い取り、土地は市から無償貸与を受けた。改修では、既存施設の一部を残しつつ内外装を刷新し、2階の和室を交流空間にすることを検討している。

路地の奥にある共同浴場「澤の湯」(写真:守山 久子)
路地の奥にある共同浴場「澤の湯」(写真:守山 久子)
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 かみのやまランドバンクの運営は、設立後しばらくは国や市の補助金に頼らざるを得なかったが、自走するための準備もしてきた。

 2021年3月には、上山市から県内初の都市再生推進法人の指定を受けた。これにより公的な位置付けが高まるほか、民間都市開発推進機構が手掛けるまちづくりファンドの支援対象となり、財政基盤を強化できる。さらに、寄付金に関する優遇措置のある認定NPO法人にもなった。澤の湯の改修は、両者によって得られる資金を活用する予定だ。

 澤の湯が改修オープンすると、JRかみのやま温泉駅から温泉地区にかけてカフェ、トキワ館跡地、澤の湯、2ヵ所のワクワク広場という大きな回遊ネットワークが誕生する。かみのやまランドバンクは、複数の場でマルシェなどのイベントを同時開催して、面的なにぎわいの創生を図っていく。

 これまでの事業を通して共通する点に、まちの状況を踏まえ、長期的な視点から弾力的な運用を考えていく姿勢がある。

 「澤の湯は共同浴場という文化資産を受け継ぐ事業であり、改修していきなり収益を得られるとは思っていない。例えばカフェharappaで割引券を配るなど、複数の施設を連動させた取り組みで事業を少しずつ育てていきたい。トキワ館も解体跡地にすぐに何かをつくるのではなく、地元の意向を聞きながら、これからじっくり検討していく」(渡辺氏)

ファンをつくり若い担い手を育成

 もう一つ、渡辺氏が重視してきたのが、まちづくりの担い手となる人材の育成だ。渡辺氏が卒業した明海大学不動産学部のほか、地元の山形大学や東北芸術工科大学と連携しているのも種まきの一環と言える。

 学生にはワクワク広場の芝張りや塗装のボランティアに参加してもらうほか、研究対象としてかみのやま温泉の空き家を提供してきた。明海大学は、上山市内の実地検証を踏まえて旧トキワ館や藩校跡地隣の空き家の利用に関する学生提案などを実施した。2021年7月には山形大学建築学科の学生らが、澤の湯のリノベーションに関するアイデアコンペを開いた。アイデアコンペには7組の学生が参加し、時間ごとに使い方を変える案や、動線を改変してまちとの関係を再構築する案など多彩なプレゼンテーションを行った。

澤の湯のリノベーションアイデアコンペの様子(写真:守山 久子)
澤の湯のリノベーションアイデアコンペの様子(写真:守山 久子)
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 こうした取り組みを通して学生がかみのやま温泉を訪れ、まちに興味を持ち、地元住民と交流する。地元住民も、若い学生から刺激を受ける。まちのファンをつくり、愛着を育んでいくことが、長い目で見たまち再生の原動力となる。

 「まちづくりはその地域に合った方法がある。私たちの目的は、イベントをつくるのではなく、日常をつくること。慌てず、上山にふさわしい時間軸のバランスを取りながらまちの魅力を高めていきたい」と渡辺氏は力を込める。

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