米国のインテリア専門誌「AD」が主催する「2021 AD Great Design Hotel Award」 を受賞したホテルが群馬県前橋市にある。過去1年間に開業した世界のホテルの中から選ばれた24のホテルの一つ。それが、白井屋ホテル(2020年12月開業)だ。コロナ禍真っただ中の開業からわずかな期間で、なぜこのような評価を得ることができたのか。白井屋ホテル株式会社の代表取締役を務める矢村功さんに、ホテル誕生の経緯から、その魅力までを語ってもらった。

それは、アートに包み込まれた唯一無二のホテル

 300年以上の歴史を持つ老舗の「白井屋旅館(1970年代にホテル業に転換)」をリノベーションして誕生した「白井屋ホテル」。2008年に旧白井屋が廃業して以降、すっかりひと気のない建物となっていたが、今、新しい息吹きが生まれ、前橋の新たなランドマークとして注目を集めている。

 白井屋ホテルは、外観デザインががらっと異なるユニークな2棟の建物から成る。まずは、館内を見て回ってみよう。

「ヘリテージタワー」の外観。前橋の歴史や風土、ビジョンなどからイメージされた、ローレンス・ ウィナーのアートに目を引かれる(写真:Shinya Kigure)
「ヘリテージタワー」の外観。前橋の歴史や風土、ビジョンなどからイメージされた、ローレンス・ ウィナーのアートに目を引かれる(写真:Shinya Kigure)
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 国道50号に面した、もともとの旧白井屋だった建物「ヘリテージタワー」に入ると、レセプションで、現代美術作家・杉本博司の作品『ガリラヤ湖、ゴラン』が出迎えてくれる。

海景シリーズで有名な杉本博司の作品。海景=会計のシャレをきかせつつ、海のない前橋にちなんで湖の作品となった(写真:青木 桂子)
海景シリーズで有名な杉本博司の作品。海景=会計のシャレをきかせつつ、海のない前橋にちなんで湖の作品となった(写真:青木 桂子)
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 1階はパブリックスペースで、レセプションの左手にラウンジとレストランがある。建築家の藤本壮介がリノベーションを手掛けた建物4階分が吹き抜けとなっており、天井から自然光が降り注いでいる。そこに、テキスタイルデザイナー・安東陽子の作品『Lightfalls』や、現代アーティストのレアンドロ・エルリッヒによるパイプアート『Lighting Pipes』が溶け合っている。ラウンジには、日本にまだ数台しか入っていないというスタインウェイ&サンズの録音・編集・再生機能付き自動演奏ピアノ「SPIRIO|r(スピリオアール)」が導入され、グリーン・光・香り・音楽などの相乗効果に包まれた心地よい空間が広がっている。

『Lightfalls』 天井から滝のように垂れるテキスタイルが、光を緩やかに届けてくれる(写真:青木 桂子)
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『Lighting Pipes』 時間帯によってパイプの色が変化する(写真:青木 桂子)
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(左)安東陽子作『Lightfalls』。 天井から滝のように垂れるテキスタイルが、光を緩やかに届けてくれる(写真:青木 桂子)
(右)レアンドロ・エルリッヒ作『Lighting Pipes』。 時間帯によってパイプの色が変化する(写真:青木 桂子)
ラウンジは緑にあふれ、コンクリートの無機質な肌合いを中和してくれている(写真:青木 桂子)
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(右)自動演奏ピアノは、毎日10分ほどの演奏や、地元のピアニストによるライブのほか、群馬出身のピアニスト・金子三勇士さんを招いたライブ演奏も行われた(写真:青木 桂子)
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(左)ラウンジは緑にあふれ、コンクリートの無機質な肌合いを中和してくれている(写真:青木 桂子)
(右)ピアノ「SPIRIO|r」は定期的に自動演奏を行う。地元のピアニストによるライブのほか、群馬出身の世界的ピアニスト・金子三勇士さんを招いたライブ演奏にも使われた(写真:青木 桂子)
客室のバルコニーから見下ろした、ホテルの躯体がむき出しになったパブリックスペース(写真:青木 桂子)
客室のバルコニーから見下ろした、ホテルの躯体がむき出しになったパブリックスペース(写真:青木 桂子)
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 2〜4階は客室のフロア。客室には、間取りやデザイン、飾られているアート作品も、どれひとつとして同じものがなく、世界的クリエイターのジャスパー・モリソン(イギリスのデザイナー)、ミケーレ・デ・ルッキ(イタリアの建築家)、レアンドロ・エルリッヒ(アルゼンチンのアーティスト)、藤本壮介(建築家)の4名が手掛けた「スペシャルルーム」が用意されている(取材時に拝見できたのは、ジャスパー・モリソンとミケーレ・デ・ルッキの部屋のみ)。

ジャスパー・モリソンの部屋。吹き抜けが見える窓を閉じれば、木箱の中にいるような空間に(写真:青木 桂子)
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ミケーレ・デ・ルッキの部屋。2725枚の「こけら板」が用いられ、その隙間から漏れる光の演出も魅力(写真:青木 桂子)
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(左)ジャスパー・モリソンが手掛けた客室。吹き抜けが見える窓を閉じれば、木箱の中にいるような空間に(写真:青木 桂子)
(右)ミケーレ・デ・ルッキが手掛けた客室。2,725枚の「こけら板」が用いられ、その隙間から漏れる光の演出も魅力的(写真:青木 桂子)

 このほかにも、鈴木ヒラク(アーティスト)や村田峰紀(アーティスト)の作品が設置された「ジュニアスイートルーム」、ライアン・ガンダー(イギリスのアーティスト)の作品が映える「エグゼクティブルーム」、さらに、予約時点ではどの部屋にあたるかわからない「デラックスルーム」と「スーペリアルーム」もあり、予期せぬアートに出会える面白さも秘めている。

 ヘリテージタワーには17室、馬場川通りに面したグリーンタワーには8室が用意されている。

 では、もう一つの「グリーンタワー」も見てみよう。

グリーンタワーの外観。知的生産性を上げる緑と、知的好奇心をくすぐるアートが融合している(写真:青木 桂子)
グリーンタワーの外観。知的生産性を上げると言われる緑と、知的好奇心をくすぐるアートが融合している(写真:青木 桂子)
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 こちらは別途、藤本壮介の設計で新築された建物で、外壁にあたる部分には、近くを流れる利根川の土手をイメージして緑が植えられている。土手を登ると、宿泊者が利用できるフィンランド式サウナや、宮島達男(現代美術家)のデジタルアートの小屋がある。

展望窓のあるサウナ。外気浴ができる丘の上からは、天気がいいと赤城山を望める(写真:Shinya Kigure)
展望窓のあるサウナ。外気浴ができる丘の上からは、天気がいいと赤城山を望める(写真:Shinya Kigure)
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生命を表すデジタルカウンターの数字が、それぞれ異なる速度で変わっていくアート(写真:Shinya Kigure)
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生命を表すデジタルカウンターの数字が、それぞれ異なる速度で変わっていくアート(写真:Shinya Kigure)
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生命を表すデジタルカウンターの数字が、それぞれ異なる速度で変わっていくアート(写真:Shinya Kigure)

 グリーンタワー内部には、会食や催事などに利用できる真茶亭(まっちゃてい)や、旧白井屋から移築した茶室があるだけでなく、ヘリテージタワー同様、アートに彩られた客室も設けられている。前橋初のフルーツタルト専門店「SHIROIYA the PÂTISSERIE」や「ブルーボトルコーヒー」(2021年9月オープン予定)といった店舗も入り、ますます注目度がアップしている。

非日常感を高めてくれる鬼頭健吾(現代アーティスト)の部屋『Interstellar』(写真:青木 桂子)
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新素材研究所が設計した真茶亭。ウェルカムドリンクをここで楽しんだり、地域の人々が催事を開かれたりと、用途はさまざま(写真:青木 桂子)
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(左)非日常感を高めてくれる鬼頭健吾(現代アーティスト)が手掛けた客室『Interstellar』(写真:青木 桂子)
(右)新素材研究所が設計した真茶亭。ウェルカムドリンクをここで楽しんだり、地域の人々が催事を開いたりと、用途はさまざま(写真:青木 桂子)