企画は人、出会いが化学反応を生む

 看板を作るにも、コラボグッズを作るにも、当然ながら無断で名前を利用することはできない。通常であれば組合が使用許諾を直接交渉するわけだが、これまでの経緯からA氏と良好な関係を築けておらず、弁護士を通じたやり取りに硬直化していたという。

 「地主組合の方に、『佐野さん、弁護士と一緒に先方と会ってくれないか?』と言われた。それは本筋ではないと思いつつ、何とか貢献したいとの思いがあったのも事実。それでビームスの法務に相談したらさすがにストップがかかった(苦笑)。

商店街関係者らと新看板の下で記念撮影。右から3人目はビームス代表取締役社長の設楽洋氏(出所:ビームス)
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 いずれにしろ、商標問題が片付かないことにはビジネスを始めるのは難しいと正直に伝えた。そうしたら、ビームスの提案をすごく気に入ってくれていた新宿三光商店街振興組合の理事が、A氏とある程度話をつけてくれた。こちらもビジネスとして引き受ける以上、一度はお会いしたいと思っていたので、その段階でA氏と会うことにした」(佐野氏)

 A氏はもともと新宿にゆかりの深い人物で、かつての地上げの狂騒や、その後の一時的な衰退を間近で見てきたことから、新宿ゴールデン街の文化を守りたいがために商標を持っているのだという。

 「企画の趣旨を説明したら真剣に耳を傾けてくれた。A氏は、コロナで大変な時期になぜ商店街組合が盛り上げていこうとしないのか不思議に感じていたそうだ。なのでその場で『看板に新宿ゴールデン街の名前を使わせてもらえませんか?』とお願いしたところ、『そういう提案を待っていたんだよ』と快諾していただいた」(同)

 かくして話はまとまり、冒頭の掲出へとつながる。看板掲出と時を同じくして「焼酎のススメ。」第2弾もスタートし、新宿ゴールデン街の看板をプリントしたコラボTシャツも販売された。通算で20数回も足を運び、関係者と親交を深めたからこその結果である。

「焼酎のススメ。2020」の発表会。今回は野性爆弾のくっきー!(写真中央)がオリジナルカップのイラストを担当した(出所:ビームス)
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 ビームス ジャパンの外部アドバイザーを務める小山薫堂氏は、後にこのエピソードを聞き「改めて、企画は人だと思った。誰かに出会うことで化学反応が生まれ、そこから転がっていく」(小山氏コメント参照)と感想を述べている。これを受け佐野氏は「最終的にまちを巻き込んで盛り上げた事例になり、本当に新宿ゴールデン街の人たちにも喜んでもらえた」と振り返った。

 たかが看板、されど看板。新宿ゴールデン街がひとつになった背景には、こんな物語が隠されているのだ。

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