大手メガネブランドのJINSが創業の地・群馬県前橋市にオープンした「JINS PARK前橋」が面白い。自前のカフェベーカリーを併設し、地域住民のコミュニティーハブとして機能。新設した地域共生事業部のメンバーは、JINS PARKを起点に自治会や行政も巻き込んでまちづくりに奔走する。およそ“メガネ屋”の枠組みを超えた活動に迫った。

フロンティアスピリットを忘れないJINSが仕掛ける地域共生

 JINSと聞いて人びとが連想するのは、メガネの大手チェーンストアだろう。リーズナブルでしゃれていて、お世話になっている人も多いに違いない。もちろん、その解釈に間違いはないが、一方で“攻めのスタイル”を崩さない企業でもある。

 例えば、メガネ型ウエアラブルデバイスとして販売している「JINS MEME」。3点式眼電位センサーと6軸モーションセンサーにより、疲労や眠気、体調などをアプリで可視化する次世代アイウエアは大きな話題を呼んだ。2015年の初号機に続き、2021年にはアップデート版を発売。軽量化とかけ心地の向上を図り、価格を1万9800円(レンズ込みの税込価格、2022年7月時点)に抑えるなど、本格普及に意欲を見せる。

 ユニークなのが、現在進行中の本社移転計画だ。同社は東京・飯田橋駅前の一等地にある高層ビルの29、30階に本社を構えるが、2023年初めには約2キロ東南にある神田錦町の地上9階地下1階建てのビルに引っ越す。驚くことに、そのビルは再開発予定エリアにあるため、およそ3年で取り壊しが決まっている。しかも床面積は飯田橋と比較して約半分と大胆な減床となる。オフィス減床はJINSの歴史上初めてのことだ。

オウンドメディアでは本社引っ越し奮闘記を連載中(写真提供:JINS)
オウンドメディアでは本社引っ越し奮闘記を連載中(写真提供:JINS)
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 代表取締役CEOの田中仁氏は自社サイトで「立派なビルに入居したことで大企業病にかかってしまった可能性があります。(中略)だから今回の引っ越しは、もう一度挑戦者としての振る舞いを会社全体で改めて意識する良いチャンスだと考えています」とのメールを社員に送ったことを明かした。この言葉には、メガネのSPA(企画・製造・販売を垂直統合したモデル)として業界に風穴を開けてきたJINSらしい挑戦の哲学が込められている。

 そんなJINSが2021年4月、創業の地である群馬県前橋市に「JINS PARK前橋」をオープンさせた。敷地面積520坪を誇る広大な施設で、1階には「JINS 前橋店」に加え、新事業となるベーカリーカフェ「エブリパン」を併設。2階は屋上テラス、施設前には芝生広場を設け、「びっくりするほど、みんなの場所。」をコンセプトに地域のコミュニティのハブをめざしている。

2021年4月にオープンしたJINS PARK。数々の実績を持つ建築家の永山祐子氏が設計を担当した(写真提供:JINS)
2021年4月にオープンしたJINS PARK。数々の実績を持つ建築家の永山祐子氏が設計を担当した(写真提供:JINS)
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 田中CEOは出身地・前橋市の活性化の中心人物として知られる。2013年からは起業家発掘プロジェクトの「群馬イノベーションアワード」を開催。2020年には個人財団を通じて廃業した老舗旅館「白井屋」を再生し、新たにアートホテルとして蘇らせた(関連記事:まちを巻き込んだアートデスティネーション「白井屋ホテル」)。こうして培った社会貢献のノウハウを2021年に策定したサステナビリティビジョンに反映。6つの重点領域のひとつとして地域共生と活性化を掲げた。JINS PARKは、地域共生型店舗を体現した施設なのである。

JINS PARKを起点に周辺が変わり始めた

 「JINSのビジョンは“Magnify Life”。生活を拡大して、その人の人生をよりよくしていくことをめざしています。単なるメガネ屋ではないのです」と語るのはJINS 取締役 田中亮氏。中でも、地域共生は欠かせないピースだと話す。

 「2021年には佐賀県に出店し、ついに全国47都道府県に進出しました。しかし、JINSだけが成長すればいいとの考えは微塵もありません。各地域に出店することで周囲の人たちとともに成長していくのが理想の姿。そうでなければ持続可能な社会は実現できないからです」(田中亮氏)

 田中氏によれば、一般的にメガネの購入頻度はだいたい2年に1本。メガネを買うことだけを目的にした店舗では、地域コミュニティーのハブになるには限界がある。それゆえ、日常的に人びとと接点を持つことを重視し、ベーカリーカフェを併設した。

 「パンは毎日のように購入する食品ですから、自然と人が行き交います。誰もが入りやすい空間なので、ふらっと立ち寄ってコーヒーを一杯飲むだけでも構わない。人が集まれば、必ず何か新しいことが生まれます。その考え方が、JINSの地域共生の根本にあります」(田中亮氏)

 サステナビリティビジョンにあわせ、2021年9月には地域共生事業部を新設した。事業部長の白石将氏は東京から前橋市に移住し、現地で暮らしながら汗をかいている。JINS PARKを起点とし、地域共生のロールモデルを作り上げるためだ。

 「私自身、12年前に前橋市の店舗で店長を務めていました。店舗で働くスタッフは“JINSのようなナショナルチェーンは地元とのつながりが弱い”との危機意識を持っており、『地域と一緒に何かできないか』との声が各地の店舗から上がっていました。そうした意識が地域共生事業部という組織につながりました」(白石氏)