「スモールビジネスで奈良を元気にする!」を掲げ、奈良市の本店に置くコワーキングスペースを舞台に起業支援を開始した「株式会社中川政七商店(なかがわまさしちしょうてん)」。将来的には、小規模店舗が連なった“歩いて回れる商圏”を生み出したいという。なぜ、同社がまちづくりに取り組むのか。その裏には、生業と切っても切れない日本の工芸の存続が深く関わっていた。

今も生まれ変わる創業305年の老舗

 工芸品をベースにした生活雑貨を中心とした品ぞろえで、感度の高い顧客層を抱える中川政七商店。古都・奈良市で1716年に創業し、今年(2021年)で誕生から305年を迎えた。

 長く、「奈良晒(ならさらし)」と呼ばれる高級麻織物の商いを軸としていたが、1973年に茶道具業界に参画し、1985年に自社ブランド「遊 中川」を立ち上げて小売業に進出するなど事業を多角化。現在、代表取締役会長を務める十三代 中川政七氏(以下、中川氏)が入社した2000年代前半以降は、企画・製造・販売を一気通貫で行うSPA業態を確立し、2010年には自社名を冠したブランド「中川政七商店」をスタート。現在は日本全国で60の直営店を中心に店舗展開するほどの急成長を遂げた。

 2021年4月14日には、創業の地である奈良市元林院町(がんりいんちょう)に同社初の複合商業施設「鹿猿狐(しかさるきつね)ビルヂング」をグランドオープン。1階と2階に「中川政七商店 奈良本店」、1階に「猿田彦珈琲」、ミシュラン一つ星レストランが手がけるすき焼きレストランの「㐂つね(きつね)」が入る。鹿、猿、狐は言うまでもなくそれぞれの特徴を取ったものだ。

2021年春にグランドオープンした鹿猿狐ビルヂング。入り組んだ路地の町並みが味わい深い(写真:淺川敏)
2021年春にグランドオープンした鹿猿狐ビルヂング。入り組んだ路地の町並みが味わい深い(写真:淺川敏)
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 鹿猿狐ビルヂングは、商業施設に加えてコミュニティとしての顔を持つ。3階にあるコワーキングスペース「JIRIN」は単なる貸しスペースではなく、奈良で魅力的なスモールビジネスを生み出すことを目的とした「N.PARK PROJECT」の拠点として機能する。このN.PARK PROJECTがこの記事のテーマである。

1階奥にある鹿、猿、狐のオブジェは英国のアーティスト、ステファニー・クエール氏によるもの(写真:小口正貴)
1階奥にある鹿、猿、狐のオブジェは英国のアーティスト、ステファニー・クエール氏によるもの(写真:小口正貴)
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