5年後には「奈良が面白くなった」ことを示したい

 具体的なプロジェクトには、「IDEA」「DEVELOPMENT」「RELEASE」「GROWTH」の順に従って、さまざまな事業を育成する。「ビジネスの種を芽吹かせ、世に出して成長させていく流れ。善い志さえあれば、起業に関わること全般をN.PARK PROJECTで提供するつもり」と井上氏は言う。

 今、最も注力しているのが種まきとなるIDEAの部分。過去のコンサルティングで関わってきた事業者は、自分の足で立っているビジネス経験者だった。だがN.PARK PROJECTのターゲットはこれからビジネスを始める、あるいはよちよち歩きの人たちが中心だ。

 「いきなり起業に向けて走り始めるのはハードルが高い。その前段階として、アイデアを出したり、人とのつながりをつくったりする仕組みを整えました。これを『SMALL BUSINESS LABO』と名付け、1ヵ月ごとにセミナー、ミートアップ、ビジネスピッチを開催しています」(井上氏)

N.PARK PROJECTの概要(写真提供:中川政七商店)
N.PARK PROJECTの概要(写真提供:中川政七商店)
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 セミナーではスモールビジネスの成功者を全国から呼び、独り立ちの秘訣などを聞く。ミートアップでは奈良の事業者、起業希望者、クリエーターらを募って人的ネットワークをつくる。それを経て、事業プランをビジネスピッチで発表。3ヵ月サイクルでひと回りするため、すでに2回のビジネスピッチが実施された。

 「7月に行われた初回のビジネスピッチには、地元の写真館や本屋の跡取り、フリーランスのPRプランナー、百貨店のバイヤーなどが登壇しました。弊社がサポートを提供する賞に輝いた『サーカスキッチン』は、農村部や過疎地域にキッチンカーで料理人を派遣するサービスで、食を通じてコミュニティを元気にする発想が高く評価されました。現在はコンサルティングに入り、二人三脚で事業をブラッシュアップしている最中です」(井上氏)

初回のビジネスピッチに登壇した人々。前列中央が賞を獲得したサーカスキッチン(写真提供:中川政七商店)
初回のビジネスピッチに登壇した人々。前列中央が賞を獲得したサーカスキッチン(写真提供:中川政七商店)
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 実はサーカスキッチンは3件目の支援。N.PARK PROJECTの本格始動よりも前に、ともに奈良市に店を構えるカレー店の「菩薩咖喱(ぼさつかりー)」と、ラーメン店の「すするか、すすらんか。」をサポートしている。前者はカレー好きの20代女性、後者は近畿大学農学部の3年生が起業したもので、経営計画や損益計算、事業を続けるためのビジョン策定などをゼロから学んだ。

 「いずれは、奈良本店の近くにN.PARK PROJECTから生まれた店が集まり、賑わいをつくり出したい。この建物から歩いて5分ぐらいで回れるエリアに5年で10店舗を出すのが目標。『奈良が変わった。面白い店が集まってるよね』と体感できるのは、最低でもそれぐらいの規模だと考えています」(井上氏)

鹿猿狐ビルヂング3階にあるJIRIN。左奥に興福寺の五重塔を望む絶好のロケーション(写真:淺川 敏)
鹿猿狐ビルヂング3階にあるJIRIN。左奥に興福寺の五重塔を望む絶好のロケーション(写真:淺川 敏)
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 大きな資本を投下すれば、ワンブロック程度の敷地なら1年もかからず「人工のまち」はつくれる。しかし、N.PARK PROJECTがめざすのは、人の息遣いが感じられる手づくりのまちだ。そこでは、工芸品と同じ手触りが感じられるに違いない。

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