「このままだと地元の人がどんどん離れていく」

サウナコタの入り口脇に展示されているのは、フィンランドの公衆サウナの写真(写真:塩谷歩波)
サウナコタの入り口脇に展示されているのは、フィンランドの公衆サウナの写真(写真:塩谷歩波)
[画像のクリックで拡大表示]

塩谷それで理想のサウナや、人が集まる場所をつくろうと思ったのですね。

新谷さんはい。おふろcafé utatane がインスタ映えスポットと認識されていた頃、「このままだと地元の人がどんどん離れていくな」という感覚がありました。それを改善するためにも、お風呂の魅力を伝えたかったのです。サウナは絶対いけると勝手に確信していました。自分でロウリュができるサウナコタは一つの目標でした。

塩谷サウナコタができたのは2019年6月ですね。 サウナ好きの私としては、「いよいよすごいものができた!」とテンションが上がりました。地元の人はどのように思われたのでしょうか?

新谷さん地震で倒れたらどうするのかと言われました(笑)。実は当初、ドライサウナを改装しようと思っていました。その工事を始める前に、テレビを消して照明を暗くした瞑想(めいそう)サウナにするイベントをやったのですが、常連さんから苦情がきてしまって。「暗くて時計が見えない」「顔が見えないから知り合いが来ているかわからない」など。気分が悪くなる人も出てしまいました。

 地域のコミュニティーを壊してしまうのはよくないと思い、「じゃあもう1個つくろう」となりました。ただ最初は、やはり使い方が認知されませんでしたね。「なんだかぬるい」と言われたり、ロウリュ用のバケツの水を体にかけたりする人もいました。そこで半年間ぐらいは、自分が裸になってサウナに入り手ほどきをしました。そのうちにだんだん認知されるようになり、例えばスタッフがサウナストーブにアロマ水をかけてロウリュをするなど、いろんな取り組みもできるようになりました。

塩谷確かに、サウナコタができてから面白い試みが増えていった感覚があります。その象徴として「サウナアロマガチャ」があると思います。どうやって使うのでしょうか?

新谷さんアロマガチャは、2~3回分のロウリュができるアロマオイルが入ったボトルのガチャポンです。いくつか種類があって、どれが出てくるか分かりません(フロントでは種類を選んで購入できます)。「アロマを使っていいですか」とまわりの人にひと言かけてもらって、バケツの水をひしゃくですくってアロマを垂らしロウリュします。

脱衣所の入り口に設置されている「サウナアロマガチャ」(写真:塩谷歩波)
脱衣所の入り口に設置されている「サウナアロマガチャ」(写真:塩谷歩波)
[画像のクリックで拡大表示]

塩谷次に、できたばかりのバレルサウナについて説明をお願いします。

新谷さんバレルサウナには背景がふたつあります。ひとつは海外で親しまれているウィスキング(シラカバの葉を束ねたもので、体をたたいたり葉を押し付けたりするトリートメント)を提供できる場をつくるため。もうひとつは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、貸し切りサウナをつくるためです。バレルサウナを借りてウィスキングも受けることができるサービスを考えています。

女性用浴室のバレルサウナの内部(写真:塩谷歩波)
女性用浴室のバレルサウナの内部(写真:塩谷歩波)
[画像のクリックで拡大表示]

塩谷それは楽しみですね。どうして樽の形のサウナにしたのですか?

新谷さんいろんな形のサウナがあったらいいなって純粋に思ったからです(笑)。ウィスキングはフィンランドと異なる文化なので、バルト三国の文化であるバレルと相性がいいかなとも考えました。

塩谷ウィスキングについて詳しく伺えますか?

新谷さんシラカバのような植物の枝葉を使って施術することで、サウナの中で植物の香りや肌触りをじっくり感じてもらいます。自分も含め、都会生活でクタクタになった人が自然に触れられる機会があったらいいと思って企画しました。ボディーケアの専門家に協力してもらっているので、プロの本格的な施術が受けられます。また、今は海外から輸入した植物を使う予定ですが、いずれは地元埼玉の植物を使ってみたいと考えています。

塩谷それはシラカバではなく?

新谷さんそうですね、例えばクロモジ、カシワの葉など、地元の山から植物を取ってきてウィスキングに使って、終わったらまた山に返して、といった循環するビジョンを描いています。

塩谷それはすごく楽しみですね。フィンランドの公衆サウナは、みんなで話せることが魅力だと思います。それこそ井戸端会議に近い雰囲気でサウナでしゃべっている。そうした公衆サウナの魅力を、どのように伝えているのですか?

新谷さん特別なことは何もしていません。サウナ施設が充実するとゆっくり過ごす時間が増えます。そうするとサウナの中での会話は自然に生まれます。サウナコタでのセルフロウリュや、好きなアロマをかけることも、会話のきっかけになるんですよ。

 ロウリュをして、「わぁ―、いい香り」となり、隣の人から「ありがとうございます」と言われる。サウナを囲んで自然と交流が生まれるところが、公衆サウナにつながると思います。早くコロナ禍が収まって、サウナに会話が戻ってくることを願っています。

塩谷良いサウナ、良いお風呂をつくることが、地域の人たちのためにもなるという考え方ですね。素敵です。その一方で、楽しいイベントも開催されています。例えば、2021年5月末にやっていた、露天でスイーツとドリンクを楽しめるイベントとか……。

露天でスイーツとドリンクを楽しめるイベントも開催(写真:塩谷歩波)
露天でスイーツとドリンクを楽しめるイベントも開催(写真:塩谷歩波)
[画像のクリックで拡大表示]

新谷さんフィンランドの人たちは、サウナに入った後も裸で過ごします。サウナから出て、そのままタオルだけ巻いて、ビールを飲みながらダラダラと2~3時間は過ごしてしまう。日本のお風呂屋さんだと浴室とカフェが完全に分かれているので、ゆっくり半日リラックスできる体験を提供したいと思ったのがきっかけです。

 実際、裸で何かを食べたりするのは法律的に禁止されているのかと思って調べてみたら、別にそうでもないようでした。カフェのテラス席の延長という考え方であれば、特に問題ない。なので、日本のお風呂屋さんでもこんなことができるんだぞ、と風穴を開けてみたい気持ちもあり、興味を持つ人がどのくらいいるのかを知りたくてイベントを開催しました。

塩谷面白いなあ。こんなユニークなイベントができるのも、良いお風呂と良いサウナがあるからだと思います。そのバランスのよさが、すごく好きです。これからも応援しますね。

おふろcafé utatane
筆者 塩谷歩波(えんや・ほなみ)
設計事務所、高円寺の銭湯「小杉湯」を経て、絵描きとして活動。建築図法のアイソメトリックと透明水彩で銭湯を表現した「銭湯図解」シリーズをSNSで発表、それをまとめた書籍を中央公論新社より発刊。レストラン、ギャラリー、茶室など、銭湯にとどまらず幅広い建物の図解を制作。TBS「情熱大陸」、NHK「人生デザイン U-29」など、数多くのメディアに取り上げられている。エッセイ「40℃のぬるま湯につかって」を連載中。好きな水風呂の温度は16℃。

「とことこサウナ散歩」 バックナンバーはこちら