日々の健康のため、疲れた心と体を癒やすため、サウナの人気が高まっています。これまで男性が好むイメージが強かったサウナですが、最近は女性サウナーも増加中。銭湯の元番頭で絵描きの塩谷歩波さんが、全国にある地域色豊かなサウナを訪れ、まちや人との関係を解き明かします。東京・神田にオープンしたSaunaLab Kandaは、男性も女性も楽しめるサウナ愛にあふれた空間でした(前編はこちら)。

 東京・神田に2021年4月にオープンしたばかりのSaunaLab Kanda。桶(おけ)の形のサウナや水盤があるサウナなど個性的なサウナ室と、自然を感じられる心地のいい空間で、早速とりこになるサウナ―が続出しています。そんなSaunaLab Kandaの魅力の秘密を、スタッフの岡歩美さんに伺いました。

SaunaLab Kandaスタッフの岡歩美さん(写真左)。右は塩谷歩波。撮影時のみマスクを外してもらいました(写真:アトリエエンヤ)
SaunaLab Kandaスタッフの岡歩美さん(写真左)。右は塩谷歩波。撮影時のみマスクを外してもらいました(写真:アトリエエンヤ)
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塩谷まず初めに、SaunaLab Kandaができた経緯を教えていただけますか?

岡さんSaunaLab Kandaが入っている「神田ポートビル」は、1964年に建てられました。もともと、創業100年以上の印刷会社である精興社(東京都青梅市)が所有するビルで、老朽化に伴う改修の際に、ここを神田のまちづくりの新しい拠点にするプロジェクトが始まったのです。

 「神田のまちに根づいているアカデミックな文脈を生かしつつ、都市で働く人たちの心と体を癒やせる施設」という構想の下、プロジェクト初期からサウナを核にすることが考えられていました。プロジェクトメンバーである建築家の藤本信行さん(VACANCES Inc.代表取締役)から、写真家の池田晶紀さん(ゆかい代表)に声がかかり、そこからSaunaLabを主宰する米田行孝(ウェルビー代表取締役)に相談がきて、SaunaLabもプロジェクトに参加することになりました。

神田ポートビルの外観。看板が特徴的(写真:塩谷歩波)
神田ポートビルの外観。看板が特徴的(写真:塩谷歩波)
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 アカデミックとウェルビーイングがテーマの神田ポートビルには、「ゆかい」の写真館、「ほぼ日」のほぼ日の学校、精興社のオフィス、そしてSaunaLab Kandaが入っています。2021年4月26日のリニューアルオープンの際に、船が港に立ち寄るようにいろんな人が訪れる場所となるよう、ビルの名前を「神田ポートビル」に改めました。

塩谷サウナありきのプロジェクトだったのですね。SaunaLabがこのプロジェクトに参加する決め手は何だったのでしょうか?

岡さん当社のサウナ施設であるウェルビーとSaunaLabは、名古屋と福岡にそれぞれ店舗があるのですが、それを全国展開させていくつもりはありませんでした。ですが、米田が神田を訪れたときにまちに魅力を感じて「神田にこそサウナが必要だ」と思ったそうです。私も、東京はビルが建ち並んでいる冷たいイメージを持っていたのですが、神田は日本の古くからの文化と新しい文化が入り交じっていて魅力的なまちだと感じています。

塩谷古い文化というのは?

岡さん神田ポートビルがあるエリアは「神田錦町」ですが、かつては東京大学や学習院大学があり学びのまちとも呼ばれています。古書を扱う書店や老舗の喫茶店が並んでいて、まちを歩くだけで文化を感じられるんですよ。

 サウナを目的に外から訪れた人が、神田ポートビルを通してこのまちの文化や地域の人々に触れて、そこから新しい文化が生まれるきっかけになったらいいなと思っています。

塩谷SaunaLab KandaはSaunaLabにおける3店舗目になります。その経緯などを教えてください。

SaunaLab Nagoyaの休憩スペース。2018年に撮影(写真:塩谷歩波)
SaunaLab Nagoyaの休憩スペース。2018年に撮影(写真:塩谷歩波)
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岡さん私たちはサウナを自然体験の一つととらえ、都会の暮らしで感じるストレスを和らげる身近な自然として、サウナのあるよりよい生活を提案しています。サウナストーブの熱、木のぬくもりや手触り、ロウリュの蒸気音、ヴィヒタ(シラカバの若い枝葉を束ねたもの)の香りなど、サウナを通して五感で自然を感じることができます。

 自分の体の感覚をフルに使って自然を楽しむことで、誰もが本来持っている力に目覚め、都会の生活で失われていた体と心の感覚を取り戻すことができるのがサウナの魅力です。都会で生活していると自然に触れることはなかなかないし、スマートフォンが欠かせないデジタル中心の生活になりがちなので、サウナで心地よさを感じることは現代社会でますます必要になると思います。

ヴィヒタの香りを感じられるIKE SAUNAゾーンのフォレストサウナ(写真:塩谷歩波)
ヴィヒタの香りを感じられるIKE SAUNAゾーンのフォレストサウナ(写真:塩谷歩波)
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 SaunaLabは、2018年に名古屋に1店舗目ができたのが始まりです。SaunaLabを運営するウェルビーはもともと男性専用のサウナ施設を運営していたのですが、「男女でサウナ格差があるのはおかしい」という女性たちの声に耳を傾けて、女性をターゲットにしたサウナをつくろうとチャレンジした施設になります。2020年には、福岡で2店舗目がオープンしました。

 日本のサウナ文化は高度成長期と共に広がったので、サウナは働く男性を癒やすためのレジャー施設という位置付けにありました。昨今のサウナブームで若者のサウナ利用者は増えたのですが、まだまだ男性中心の文化だと感じています。サウナを全ての人に届けるため、そして日本にサウナカルチャーを根づかせるための種まきとして、SaunaLabを運営しています。

塩谷とても素敵なお話です。名古屋も福岡も神田も雰囲気は異なっていますが、SaunaLab Kandaは1階にカフェスペースがあるのが大きな違いですね。どのようなコンセプトなのでしょうか?

1階のカフェスペース(写真:塩谷歩波)
1階のカフェスペース(写真:塩谷歩波)
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カフェスペースで注文できるSAKEサンド。ピクルスとサーモンの相性が抜群で、ここに来たら必ず食べたくなるおいしさ(写真:塩谷歩波)
カフェスペースで注文できるSAKEサンド。ピクルスとサーモンの相性が抜群で、ここに来たら必ず食べたくなるおいしさ(写真:塩谷歩波)
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岡さん1階のカフェスペースはパブリックスペースとして開放しています。サウナに入りに来るお客さまも、そうでない方も利用できる、まちの案内所のような場所にしたかったのでカフェを設けました。

塩谷SaunaLab Kandaはまちづくりを意識した施設なんですね。名古屋のSaunaLabはビルの一室にあって、そこで完結しているのが魅力だと思うのですが、神田はまちに開かれたゆるやかな雰囲気がすごくいい。ところでSaunaLabといえばアイスサウナが名物です。詳しく教えてください。

岡さんアイスサウナは、フィンランドのラップランド地方をイメージしてつくられた、冷気を楽しむサウナです。ラップランドの冬は外気がマイナス30℃くらいになるので、水風呂に入らなくても十分気持ちいいですよ。そもそも、フィンランドの公衆サウナには水風呂があまりなくて、サウナのあとは外のベンチで休むのがスタンダードです。サウナ、水風呂、外気浴が日本ではセットになっているけど、水風呂がなくてもマイルドな感覚を味わえるし、初めてサウナに入る方も挑戦しやすいのです。

サウナ後に、極寒の中で外気浴を楽しむフィンランドの人々(写真:塩谷歩波)
サウナ後に、極寒の中で外気浴を楽しむフィンランドの人々(写真:塩谷歩波)
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 以前フィンランドの方に「日本人は、何分サウナに入るとか、何セットとか、『ととのった』とか、色々気にしすぎていて、純粋にサウナを楽しめていない」と言われたことがあります。実はSaunaLabのサウナ室には時計を一切置いていません。自分の五感を頼りにして、体や心に耳を傾けるひと時を過ごしてほしいと考えているからです。そういった、日本で当たり前になっていたサウナの文化やサウナの価値を改めて問いかけようと試みているのが、SaunaLabの名前の由来でもあります。