これまで男性が好むイメージが強かったサウナ。でも最近は女性サウナーが増加中。コラム「とことこサウナ散歩」では、銭湯の元番頭で絵描きの塩谷歩波さんが全国にある地域色豊かなサウナを訪れ、まちや人との関係を解き明かします。東京・西小山にある「東京浴場」の後編は、ユニークなアイデアの裏にある秘密を探ります。
前編はこちら

 2020年7月、リニューアルをして再スタートを切った、西小山の銭湯・東京浴場。アイデアに富んだリニューアルで“さっそう”と現れ、銭湯好きの間で話題に。さらには2021年1月から始まった一人用の貸し切りサウナ「おこもりサウナ」が、サウナ好きをとりこにしています。店長の相良さん、スタッフの田川さんに、ユニークな取り組みについて伺っていきます。

左から、東京浴場店長の相良政之さん、筆者の塩谷歩波、東京浴場スタッフの田川あす美さん。撮影時のみマスクを外してもらいました(写真:アトリエエンヤ)
左から、東京浴場店長の相良政之さん、筆者の塩谷歩波、東京浴場スタッフの田川あす美さん。撮影時のみマスクを外してもらいました(写真:アトリエエンヤ)
[画像のクリックで拡大表示]

 相良さんは元々IT系のエンジニア。本業の傍ら、銭湯ブログや銭湯記事のライターとして活動しつつ、東京・昭島市の富士見湯でアルバイトをしていました。やがて銭湯経営をめざして、富士見湯を営むニコニコ温泉に転職し、東京浴場のリニューアルオープンの際に店長に就任しました。スタッフの田川さんは美大出身。本屋さんで働いていた経験も生かして、東京浴場のデザイン周りを担当しています。

塩谷東京浴場は2020年7月にリニューアルオープンしましたね。それまでの経緯を教えていただけますか?

相良さん東京浴場自体は1951年(昭和26年)に創業した銭湯で、リニューアルオープンの際に弊社(ニコニコ温泉)が運営を引き継ぎました。ニコニコ温泉は昭島市の富士見湯と、神戸市の湊山温泉の2つの温浴施設を運営しています。3店舗目を探しているタイミングで、知人の銭湯経営者さんから「今度廃業する銭湯が次の人(経営者)を探しているんだけど」という話をいただきました。

塩谷「次の人」というと、経営者のほかに大家さんがいるんですね。

相良さんそうなんです。大家さんはここを含めて3つの銭湯を持っています。大家さんに毎月、賃料を支払って銭湯を経営しています。ここを引き継いだときは、正直に言うと“品川区最弱の店だ”と思いました。3つの浴槽は1つの機械で温度管理しているので調整が難しいし、水風呂もないし、設備も古い。天井の高さだけが強みでしたね。

ロビーの本棚(写真:塩谷歩波)
ロビーの本棚(写真:塩谷歩波)
[画像のクリックで拡大表示]

塩谷ロビーの大きな本棚は、強みである天井の高さを生かしているんですね。この本棚のアイデアはどこから浮かんだのですか?

田川さん天井の高さを使って何かインパクトを与えたいと思ったときに、富士見湯を思い出しました。富士見湯の目玉の一つが7000冊の漫画で、それが若い方の来店動機になっているんです。ただ漫画を置くだけだと漫画喫茶と差異化できないので、より面白くシンボリックなものにしたいと追求した結果、いまのかたちになりました。

各浴室に2つずつ設置されている樽型の水風呂(写真:塩谷歩波)
各浴室に2つずつ設置されている樽型の水風呂(写真:塩谷歩波)
[画像のクリックで拡大表示]

塩谷リニューアルで、浴室に「樽型」の水風呂を置きましたね。どうしてこの形にしたのでしょうか?

相良さん水風呂は、浴室のシャワーを1列分潰して設置しました。元々シャワーは30個あったのですが20個で十分なので、リニューアルの際に1列潰し、そこに何か新しいアイテムを設けようと思ったんです。僕自身、交互浴(あつ湯と水風呂に交互に入る入浴法)が好きなのと、浴場の満足度は滞在時間に比例するので、より浴室の時間を楽しんでもらうためにも水風呂を入れたいと考えました。ただ、新しく浴槽を造ろうとすると1000万円かかってしまう。かけられる予算は200万円程度でした。お金をかけずに水風呂を造りたいなと思っていたところ、たまたま酒屋さんの前で樽を机にしているのを見かけたんです。それを見て「あの中に入ったら気持ちいいだろうな」と思って(笑)。ブランデーを販売している会社に連絡してみたら1個2万〜3万円で買えることがわかり、4つ注文しました。

塩谷水風呂の樽は、元々何に使われていたんですか?

相良さん樽って、使い終わった後にバーナーで焼き直しをしてもう一度使うそうです。買った樽は2回使われて、10年間ブランデーを入れていたそうですよ。樽を4つ購入して、水風呂の浴槽にするために足場を組み、配管をして、設置費用はトータル86万円で済みました。

塩谷知恵を絞って、1000万円かかるところが80万円で済んだのですね……。