人々が快適に過ごすことができるように、まちは日々、進化し続けています。その進化はとても自然で、ともすれば人々がほとんど意識していないうちに暮らしの質が高まっていることもあります。この連載では、社会的な課題となっているテーマを取り上げながら、まちが人々を支える黒子(くろこ)となって、さまざまな技術やサービスを取り込み、いかに生活者のQOL(暮らしの質)を高めていくのかを探っていきます。未来のまちづくりのヒントも見えてくることでしょう。第1回のテーマは「お出かけ・外出(人の移動)の未来」。日経BP総合研究所の神保重紀(主席研究員)、徳永太郎(社会インフララボ所長)に、人々の移動を快適にする新しい取り組みについて、最新の動向を聞きました。

近い将来、高齢者の移動が楽になり、自動運転車で移動中に趣味に取り組んだり、バスに乗っているうちに簡単な健康チェックができたりするようになるでしょう。また、個人用の乗り物を活用して、いちご狩りやハイキングを楽しみ、お遍路にチャレンジすることもできるかも?
近い将来、高齢者の移動が楽になり、自動運転車で移動中に趣味に取り組んだり、バスに乗っているうちに簡単な健康チェックができたりするようになるでしょう。また、個人用の乗り物を活用して、いちご狩りやハイキングを楽しみ、お遍路にチャレンジすることもできるかも?
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高齢者の外出のハードルを下げる

まちには、生活に必要な施設や刺激を受ける場所が点在し、そこに多くの人々が行き交うことでにぎわいが生まれ、さまざまな交流が広がります。ただ、そうしたまちの姿の前提にあるのは、「人々が安全で自由に移動できる」環境が整っていることです。しかし、実際には、高齢者にとってまちへの移動手段が十分に整っていなかったり、外出に対する心理的なハードルが高かったりして、「安全で自由に移動できる」状況になっていないケースも見られます。そもそも高齢になるほど外出を控え、家に閉じこもりがちになる傾向も見られますよね。未来の都市においては、人々がもっと気軽で快適で、安心して移動できるようにはならないのでしょうか?

神保まさに、高齢者に対して運転免許の自主返納が推奨されている今、地方の過疎地などにおいては「高齢者の移動手段の確保」、あるいは「移動支援」は喫緊の課題になっています。これからのまちづくりでも、人の移動をより効率よく、安全なかたちで実現する「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)」、いわゆるMaaSの推進がテーマの一つなのです。そこでは、高齢者の移動が重要なポイントになるでしょう。

 また、都市における移動という点では、観光地の交通課題の解決も大きなテーマになっています。鉄道駅から観光地をつなぐ交通手段が不足している不便さや、効率よく周遊観光ができる新たな移動サービスの取り組みが各地で進められています。

徳永いわゆる交通弱者と呼ばれる方の外出のハードルを少しでも下げるために、「外出が苦にならない」サービスが出てきました。

まず高齢者の移動手段についてですが、新しいサービスにはどういったものがありますか?

神保アイシンというトヨタグループの自動車部品メーカーが、「チョイソコ」という乗り合い送迎バスサービスを手掛けています。これは事前に予約した複数の利用者がひとつの車両に乗り合わせて目的地まで移動するオンデマンド交通のサービスで、全国の自治体向けに展開しています。

(写真:元田光一)
(写真:元田光一)

 公共交通手段が十分に整っていない地域では、住民の移動手段として自治体がコミュニティバスを運行させるケースがあります。ただ、利用者の負担を考えて、運賃を100~200円などと低く設定するため、運営を税金で支えることになります。行政に財政負担を強いることになり、持続可能性に不安が残ります。また、コミュニティバスは地元の交通事業者と競合して、その需要を減らすことにもつながります。

 しかし、チョイソコは地元の交通事業者が主体となって車両を運行します。その際、「エリアスポンサー」を募って採算性を向上させていることが大きな特徴です。

「エリアスポンサー」とはどういったものなのですか?

神保地域住民が利用する病院や店舗といった施設の事業者が、チョイソコのスポンサーになるのです。スポンサーは自社の施設近くに停留所を設置します。つまり、利用者のニーズに合わせた交通手段を提供すると同時に、交通事業者はスポンサー収入で運営費の一部を確保します。さらにスポンサーにとっては、利用者を呼び込むマーケティングの手段にもなるといったビジネスモデルなんです。

 利用者にとっては、外出する目的となる施設の近くで乗り降りできれば、移動もこれまで以上に楽で便利になりますね。少し気軽に外出する気持ちになると思います。これまで家族に運転を頼んで外出をしていた高齢者にとっては外出のハードルが下がりますし、外出の機会が増えれば健康増進にもつながるでしょう。

オンデマンド交通のサービスでは事業採算性が課題になりますが、この「エリアスポンサー」という手法は期待できそうですね。

神保さらに地域内で消費することで、地域内の経済にも一定の効果をもたらすでしょう。チョイソコは移動手段の提供をビジネスモデルにしているだけではなく、そのシステムを活用した付加サービスも開発しています。例えば、車両にセンサーとカメラを搭載することで道路の破損などの路面情報や道路標識の劣化、二酸化炭素濃度の検出なども行っています。こうしたデータを蓄積することで、新たなソリューションの創出も考えているようです。すでにチョイソコは全国各地の20を超える自治体で導入されており、注目されています。