世界の動きは八戸の食卓に反映される

Economic Mondayは通常の紙面をラッピングする形で届けられます。このアイデアは斬新ですよね。その議論の中から出てきたものですか。

荒瀬 はい。ビジネスモデルの都合上、日々発行している本紙のデザインそのものを大きく変えるのは難しい。そこで、特別な紙面を用意しラッピングして配布するというアイデアに行き着きました。

 肝心の紙面の中身をどうするかですが、やはりこの八戸とその周辺地域、私たちは「北奥羽」と呼んでいるのですが、ここで何を発信できるのか、何をお届けできるのかを考えました。そんな中、自然と「経済に着目した新しいメディアを用意しよう」というアイデアが出てきたのです。

 八戸は東北の中でも特に経済活動が活発な地域です。しかも、いわゆる企業城下町とは異なり、いろいろな産業が立地する多様性に富んだ都市です。

 もともと八戸は水産業で栄えた町ですが、その後は国の政策も受けて製造業も発達しました。養豚や養鶏といった畜産業も盛んです。八戸には飼料穀物コンビナートがあります。アメリカ西海岸から穀物を運び、ここで畜産の飼料を作っているのです。

 また八戸には、鉄合金の一種であるフェロニッケルの最大手、大平洋金属の本社および製造所があります。事業はロンドン金属取引所における相場の影響を受けるわけですが、それは当然、八戸の地域経済にも影響します。

 つまり、世界経済の動きはリアルにこの地域に影響し、最終的には八戸および北奥羽地域の皆さんそれぞれの家庭の食卓にまで及ぶわけです。

 ちなみに夜の八戸は経済活動を背に、とても元気です。中心街にシャッターが閉まったお店は少ないし、飲み屋街はにぎわっています。

 この八戸を中心とした北奥羽の経済を見ていけば、世界経済が見えてくる。この事実をより鮮明に、わかりやすく解説できたら面白いだろう。そんな紙面を作ってはどうだろうかと。このようにしてEconomic Mondayのコンセプトが決まったんです。

 インフォグラフィックスを配した紙面であれば、本紙とは制作体制も違うでしょうね。

荒瀬 はい。通常、新聞の紙面は、記者が取材し、デスクが原稿を査読し、校閲と整理を経て発行されます。Economic Mondayでは「グラフィック組版」というプロセスで紙面を作っています。取材記者とデザイナーがひざを突き合わせて紙面を作っているんです。これは新しい試みです。

 なお、同時並行でデーリー東北の本紙の題字も変えました。以前は縦組みでしたが、新しいものは横組みです。

こちらはEconomic Mondayの2019年9月2日発行号。記事の主題を直感的に伝えられるグラフィックスを配するため、記者とデザイナーが組んで紙面を作成する。(画像提供:デーリー東北新聞社)

デーリー東北を「私の居場所のひとつ」にできないか

ネットが発達して世界中の情報が簡単に手に入る時代です。そんな中、地域の報道メディアの役割を、どのように認識していますか。

Economic Monday 第1号(2015年8月31日発行)を出す前に、実店舗を活用したプロモーション活動を展開した。八戸市内の大手スーパーであるユニバース3店舗の協力を得て、店舗の床やPOPを配置した。中身は、Economic Monday紙面のデザインで配した、野菜や魚介類などをテーマにした経済記事。小学校の授業の一環としてこれを見学に来たクラスもあったという。(写真提供:デーリー東北新聞社)

荒瀬 いわゆる新聞離れが進行する中、危機感は当然あります。ブランディングの議論をし始めた頃のエピソードを紹介しましょう。当社の若い社員が同世代の知人と話をしていたら、「デーリー東北って何を作っているの」と質問されてショックだった、と言っていました。

 デーリー東北は10万5000部を発行しており、八戸市内については購読紙のうち8割を超えるシェアを頂いていますが、それでもデーリー東北という存在を知らない人が出てきているわけです。Economic Mondayには、若い人にも手に取ってもらいやすい新聞にしようという意図も込められています。

 また、地域の方々に「デーリー東北が私の居場所のひとつだ」と感じていただけるような仕掛けを用意しようと考え、紙面以外にもいろいろな試みをしています。

 1つは本社屋内に設置した多目的ホールです。もともとは輪転機工場があったフロアなのですが、こちらを改装してホールに変えました。音楽や落語をはじめとした芸術イベントや展示会の会場に使っていただいています。もう1つが「しんぶんカフェ」です。本社の周囲に飲食店が少なく、ホールを利用した方々がゆっくり飲み物や食事を楽しむ場所があったら良いのではということで、敷地内に設置しました。

 いずれも、多様な興味関心を持った方々、特に新聞を読んでいない方でもデーリー東北の近くに来てもらえるような、親近感が持てる仕掛けを用意しようというのが意図です。

デーリー東北新聞社が本社敷地内に建てた「しんぶんカフェ」