東京都高円寺の街に壁画アートが大量発生している。ストリートアーティストが無秩序に描き散らかしたものではない。地域とアートプロジェクトがタッグを組んで、その街らしいアート作品をお互いの合意のもとで展開する。作品と街を結んでいるのがアートディレクターの大黒健嗣氏だ。高円寺に根を張り、「とびきり自由で面白いことを街に自然と溶け込ませていくことを心がけている」と語る大黒氏。その仕事から見えてくるひととまちの関わりを探る。
JR高円寺駅の南口を出て徒歩3分。駐車場の壁の一面を覆い尽くす絵画に出会うことができる。ハンドルを握った女性が振り返ったように見える図柄を鮮やかな色使いで仕上げている。
さらに少し歩くと6階建てのビルの壁一面、翼を広げたイーグルが舞う。
高円寺の街に次々と出現するこれらの壁画アートが話題だ。仕掛け人の大黒健嗣さんに、実際に街を歩きながら話を聞いた。
商店街を歩くと、「こんにちは大黒さん、最近は調子どうですか」「また飲みましょうよ」など、そこかしこから声がかかる。大黒さんはその1つひとつに笑顔で答える。声をかけてくるのはバーの店長だったり、ショップの店員さんだったり。大黒さんがいかに高円寺という街に溶け込んでいるかが分かる。
JR中央線を使えば新宿まで数分という場所にありながら、高円寺にはどことなく下町の風情がただよう。入り組んだ小路に分け入るようにして散策すると毎回新たな発見があり、何度訪れても飽きることがない。
よそ者や夢を追いかける若者にも寛容な雰囲気があり、そうした空気に誘われるように劇団員やバンドマン、画家やお笑い芸人などが多く暮らしていることでも知られる。そんな高円寺に大黒さんが暮らし始めたのは、2007年のこと、24歳のときだった。
「“高円寺HIGH”というライブハウスで働き始めたのが最初です。その後、ライブハウスの1階にあるテナントをギャラリー・カフェにしようという企画が持ち上がり、僕が店長として関わるようになったのです」(以下「」内は全て大黒さん)