街があってこそのKoenji Mural City Project

 「街を歩いて、素敵な壁画がある。こうしたプロジェクトなので、情報として真っ先にアーティストの存在が前に出てきますが、実は『アーティスト』と『壁のオーナー』と『街』は切っても切れない関係です。その3つがきちんと同じ方向を向いた状態でないと、プロジェクトは前に進みません」

 街の求めるテイスト、壁のオーナーが描いてほしいテイスト、アーティストの描きたいもの。それぞれのイメージを出し合い、調整して、仕上がりを想定し実際の作品を製作する。これらの作業がひとつでも抜け落ちると、それは単なる落書きに堕してしまう。

 「一連の工程で、携わるメンバーが必然的に意識を向けていくのは『街』のこれからの事です。壁画ですから景観に大きく影響を与えます。描かれた後もずっと街のためにポジティブな存在であり続けたい。そのために、アーティストと壁のオーナー、お役所の人などが膝を突き合わせて話し合います。いろんな議論が噴出するのだけれど、それ自体が貴重で新鮮なことだし、プロジェクトの意義として大切に考えています」(大黒さん)

 大黒さんは「壁画って、製作途中がいちばんおもしろいかもしれないと思うんですよ」と言う。高円寺の街を訪ねれば、「いつもどこかで壁画の製作が行われている」のがプロジェクトチームの目標なのだそう。

 「そういう意味では、今も製作が続くサグラダ・ファミリアみたいなプロジェクトでありたいのかもしれないですね」

場所:東京都杉並区高円寺南2-45
作家:キーニュ ペインティング作品をはじめ、 オリジナルアイテムの販売、 壁画制作、 個展やグループ展への出展、 アートワーク提供など、様々な活動を展開。
解説:日本人アーティストの”キーニュ”とリバプールのポップバンド”スティーリングシープ”のコラボレーション作品(2019年1月製作)
パブリックな空間をアーティステックに飾る「ガラスの茶室」
「吉岡徳仁 ガラスの茶室 – 光庵」2019-2021年 国立新美術館 公開風景

 高円寺の壁画アートを眺めていると、すべての作品がずっと以前からそこにあったかのように思えてくる。1つひとつの絵が街のニュアンスにすっかり溶け込んでいるから、そうした感慨を誘うのだろう。

 一方で、東京・六本木の国立新美術館の前庭に設置されている「ガラスの茶室 – 光庵」は、まさに景観との融合の妙を存分に堪能できる作品だ。

 全体がガラスと光沢のある金属で作られた茶室「光庵」は、2011年の第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展にて発表された。2015年には京都の将軍塚青龍殿の舞台で披露され話題になった作品である。

作者の吉岡徳仁氏(一般の来場者の方には壇上への立ち入りをお断りしています)

 作者の吉岡徳仁氏は「茶道の思想にも受け継がれる、エネルギーを知覚化するのが日本の自然観。光庵は、空間と時間の概念を超え、日本文化の根源を再考する作品です」と語る。

 この光庵が今、2021年5月10日までの期間限定で国立新美術館の前庭に特別公開されている。美術館の壁面がガラスで覆われているために、手前に置かれた「ガラスの茶室」が背景に溶け込みながらも際立つ。

 「夜はライトアップされるため、また違った美しさを楽しむことができます」(吉岡さん)

 街とアートを融合させることで、その場所に新たな魅力を創出する。こうした取り組みは、現在様々な地域で行われている。

 事前に調べて出かけることで、いつもの散策がより有意義なものになるかもしれない。お金をかけずにアートを楽しむことができるのも嬉しい。

特別展示 「吉岡徳仁 ガラスの茶室 – 光庵」
会期:2019年4月17日(水)~2021年5月10日(月)
観覧料:無料
会場:国立新美術館 屋外(東京・六本木)
企画:吉岡徳仁デザイン事務所

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