霊安室へのストロークが寂しい

 霊安室につながる廊下にも、静かな壁画が施されている。コンクリート打ちっぱなしの、かつては冷たいイメージがむき出しの壁だった。

霊安室につながる廊下。花びら一つひとつには描いた人のイニシャルが添えられている

 「ここに来てみてすぐに感じたのが『におい』の問題でした。どこからなのかわからないけど、プーンと生ゴミのような異臭がする。よくよく聞いてみたら近くに食品業者の方々が通る場所があり、そこから漂ってくることがわかりました。衛生的に問題があるわけではないのですが、搬入搬出時のやり方を変えてもらうことで匂いがなくなりました。現状をよく観察してこれまでのやり方を問い直すだけで解決する問題もあります。アート作品だけでなく、そのプロセスも大切なアートの一部なのです」

 殺風景で寂しいという「痛み」に気づかなければ、においの「痛み」の解決にもならなかったであろう。

芝生が踏み荒らされる

 駐車場から病院入り口に至る場所に芝生の植え込みがある。ここを通れば玄関までの近道だ。大人も子どもたちも、知らず知らずに芝生の上を通ってしまう。おかげで芝生のいたるところが剥げて「痛み」だらけだった。

芝生の植え込みに設けられたこびとの家と道

 まずは、「こびとの家」を作って置いたという。ここにはこびとが住んでいるから入らないでね。という看板を立てた。大人たちはそれでわかってくれたのだが、子どもたちにとってこびとの家は楽しいおもちゃだ。おかげで芝生にやっぱり入ってしまう。どうしたものかと知恵を絞っていたとき、病院に出入りするソーシャルワーカーが素晴らしいアイディアをもたらした。

 「『そういうときは道を作ってあげればいいのよ。そうしたら子どもたちは何も言わなくても道の部分だけ歩くものなの』って。なるほどと思いました。やってみたらソーシャルワーカーさんの言ったとおり。今では芝生が踏み荒らされることもなくなりました」

病院内の表示がわかりにくい

 子どもからお年寄りまで、四国こどもとおとなの医療センターにはさまざまな患者さんが訪れる。そこで浮かび上がってきたのが、院内の案内表示のわかりにくさだった。

 「ぱっと見ただけでわかるようにしたかった。例えばエレベーターまでの道のりは機関車とレールで表現してみました。『このレールをたどっていけばいいですよ』とお伝えすれば職員の業務改善にもつながります」

エレベーターの場所をアートで知らせる

 他にも、雑草だらけだった屋上は、今では近隣のボランティアの手によって素晴らしい庭園に生まれ変わった。患者さんだけでなく、地域の憩いの場として定着している。

 このように、さまざまな力を持ったホスピタルアートは、「理念の顕在化」「業務改善」「社会包摂」の3つのテーマで色分けできるという。

 「アートメッセージによって、その病院の理念を顕在化することができます。また、館内の案内表示をアートでわかりやすく説明するような業務改善。そして、病院だけでなく、地域をも巻き込んでひとつの作品を仕上げていくことで、社会と密に関わっていく。すべては臆さずに『痛み』を訴えることから始まると、私は思っています」

ボランティアの手によってきれいに手入れがされた屋上庭園

 病院は痛みを癒すための場所だ。でもそこにもやはり痛みはある。これを解決するホスピタルアートは、たぶん心の痛みも同時に救ってくれているのだろう。