働く人が、それぞれの事情に応じて多様で柔軟な働き方を自分で選択できれば、仕事が効率的になり生産性も上がる。このような効果に期待して、政府が積極的に進めているのが働き方改革だ。そして、働き方改革を進める上での手法の一つとして、テレワークの活用が推奨されている。テレワークによって、セキュリティが十分確保されたネット環境があれば、会社以外の場所でも仕事ができる。仕事の効率が上がるならば、自宅だけでなく、海や山など自然環境に恵まれたリゾートなどで仕事をしてもいいのではないか。今、そのような場所で働く「ワーケーション」という取り組みが、働き方の新しい選択肢になろうとしている。

アメリカから生まれた新しい働き方

 ワーケーションという言葉は、「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語だ。基本的には、リゾートなどで、休暇を兼ねてリモートワークを行う労働形態を指す。そうした働き方は、2000年代にアメリカで生まれたと見られている。

 2005~2007年に米Square Enixの社長(COO)として現地で事業に携わり、現在Happy Life Design Labの代表を務める岡⽥⼤⼠郎⽒によると、「もともとアメリカ人のワーカーは、自分の仕事のペースは自分で決め、夏季休暇なども2~3週間はとっていた。とはいえ、その間まったく仕事をしないわけではなく、エグゼクティブなどはどうしてもやらなければならない仕事が出てくる。そこで、リゾートにある別荘などで仕事をしていた。そのワークスタイルは、現在日本で注目されているワーケーションそのものだった」。

 一方で、当時はスタートアップを含めたさまざまな企業のワーカーたちが集まるカンファレンスが、西海岸などのリゾートで開かれることも多かったという。そこに集ったワーカーたちは夜の9時頃から、ホテルのバーでお酒を飲みながらいろいろと話を交わしていた。「そういった場から、会社の枠を超えたイノベーティブなアイデアが次々と生み出されていった」(岡田氏)。

 AmazonやGoogle、Facebookなどといった企業が大きな成長を遂げた2000年代、アメリカでは普段の職場や自宅などではないリゾートという場所で仕事をすることで、いろいろとビジネスの成果が上がっていたようだ。

 日本でも、全国的にインターネット環境が整ってきた頃から、フリーランスのワーカーが場所にとらわれない働き方を選ぶようになってきた。そして、企業の雇用制度に縛られてきたサラリーマンも、働き方改革の推進で職場以外の場所で働いても出勤が認められつつあることで、ワーケーションという働き方を選べるようになってきた。

ワーケーションによって休暇取得を促進

 ワーケーションは、同じようにテレワークを活用した働き方の一つであるリモートワークと混同されがちだが、それぞれ目的が異なっている。リモートワークは、主に自宅やサテライトオフィス、移動中などに業務を行うことを指している。すなわち、単純にオフィス以外の場所で業務を行って仕事を効率化することが目的だ。

 一方、ワーケーションの導入には日本企業の課題ともいえる、なかなか長期休暇が取りづらい職場環境を改善したいという背景もある。そのため、ワーケーションの目的は、旅先や帰省先などでもリモートで仕事ができるメリットを活かし、休暇をしっかりと取ってリフレッシュするという側面もある。それは見方を変えれば、せっかくとれた休暇なのに、そこでも仕事に追われてしまったら意味がないと思われがちだ。だが、そうではなく、きちんと休暇をとるためにワーケーションを利用するわけだ。

 いち早く、ワーケーションを制度として取り入れたJAL(日本航空)の例を見てみよう。JALでは、2017年7~8月の2カ月間、国内外のリゾート地や帰省先、地方などでテレワークを実施。以降、継続的な取り組みとなり、利用者は2017年の11人から2018年には78人と大幅に増えたという。

 JALでは、例えば急に入った会議が当初計画していた旅行と重なってしまった場合、従来は仕事が優先され、旅行の日程を変更したり旅行を諦めたりするしかなかった。ワーケーションを取り入れることで、そのような場合でも休暇の予定を変更することなく、会議にも無理なく参加できるようになるという。JALでは、ワーケーションによって社員の旅行の機会が増え、家族と過ごす時間も増えることにも期待しているという。

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 前述のように、アメリカではリゾート地に集まってきた多種多様な業種のワーカーが交わることで、イノベーションが生まれてきた側面がある。現在、日本では地方自治体が、ワーケーションで利用できる施設作りを積極的に推進しており、今後はそういった施設を利用する異業種のワーカーたちが交流する機会が得られることも、ワーケーションのメリットとなるかもしれない。

──記事冒頭の写真:リゾートで海を眺めながら、イノベーティブなアイデアを(イメージ) original image: anyaberkut / stock.adobe.com