「異物」を受け入れてくれた鎌倉

鎌倉は山と海に囲まれた著名な観光地であり、「住みたい場所ランキング」にもランクインする土地です。鎌倉に本社を置くことの意味や意義について、どう感じていますか。

柳澤氏(以下、敬称略)もともと鎌倉って、事業所が多いエリアではないです。観光と、「住みたいまち」ですよね。高級住宅地や文豪などの人たちが別荘を持つという空気感がある場所です。

 観光客は年間約2000万人来ます。でも鎌倉への観光客はほとんど日帰りで、夜になるとサーッと帰っていく。宿泊まで繋がらないのが観光業としての課題になっています。でも、だからこそ夜は静かで、住みやすいまちになっていると思います。

 そんな「良いまち」である鎌倉も、住人の高齢化などいろいろな変化に対応せざるを得なくなってきた。そのような中で行政は近年「働く人を増やそう」という方向に動いています。カヤックも鎌倉に本社を置き、鎌倉のまちの活性化のため、そして社員の幸せのために、職住学が近接できるよう福利厚生を設け、鎌倉に住むことを推奨しています。

 今でこそITが発達して、企業の文化も制度も変わり、個人が住む場所・働く場所を選択しやすい時代になってきました。けれども、僕らが鎌倉に来た2002年頃に、ITの会社が鎌倉にやってきて職住近接を始めたというのは、それまでの鎌倉にとっては異物だったと思うんです。たぶん今でも、その異物感は抜けていない。

 でも、これからはどの地域にもITサービスを提供する企業が必要になります。鎌倉は、そのような変化を先んじて受け入れてくれた土地で、とても感謝しています。

鎌倉を盛り上げ、鎌倉の仲間が増えた

柳澤カヤックは2017年から「鎌倉資本主義」、2019年からは「地域資本主義」と概念を拡張して提唱していますが、実はもう少し前から、まちづくりに積極的に関わってきました。その代表例が「カマコン」です。

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「カマコン」は、2013年にカヤック・柳澤氏を含む鎌倉に拠点を置く経営者7人により設立された、地域団体およびその活動名称。定例会が開催されており、参加者が「鎌倉を良くするためにやりたいこと」を提案し、具現化するためのアイデアをブレーンストーミング方式で出していく。鎌倉市役所や市民団体からも参加しており、2013年と2017年には市議選に向け投票者をまちぐるみで巻き込むアイデアを実現。これまでに300件以上のプロジェクトがカマコンを通じて提案されている。近年は自治体や地域団体から視察グループが来ることも多く、同じスタイルを採用した活動は、福岡県の「フクコン」など全国約40ヵ所に広がっているという。

 カマコンでは鎌倉というまちについて、多様性を確保しながらどうやって良くしていくかという目標を掲げてやってきました。大事にしているのは、鎌倉にずっと住んでいる人も、移住してきた人も、鎌倉に出戻ってきた人も、民間も行政も含めて、いろいろな人や組織と一緒に鎌倉を良くしていくという点です。カマコンのおかげで、「まちのコイン」など何か新しいことやろうというときに応援してくれ、受け入れてくれる仲間ができたと思います。

 ほかの地域でも、「地域を盛り上げよう」という場合に、外から来た人や戻ってきた人も入って、地元の人たちと一緒にブレストしてアイデアを出し合い仲間になるというプロセスが必要なんじゃないでしょうか。カヤックがほかの地域をお手伝いするときに、カマコンで得たノウハウも提供できる気がするんです。

20年近くの時間をかけてカヤックが鎌倉に根付いていく中で、鎌倉という地域に育てられたところはありますか。

柳澤すごく鎌倉に育てられた感じはあります。鎌倉という土地のブランドは元々あるもので、その名前をお借りしてカヤックのイメージをより良いものにしてもらいました。また、「鳩サブレー」で有名な豊島屋の久保田(陽彦・社長)さんをはじめ、鎌倉の伝統的な企業の経営者の皆さんから、地元との付き合い方はどうあるべきかをたくさんご指導いただきました。

 地域の活動を形にする際には、企業での活動に比べるとやはり時間がかかります。特に行政もかかわるルールづくりは、時間をかけてやらないといけないことも多いです。企業に比べたら遅く見えますけど、それは扱っているものや背景が違うので。カマコンなどを通じて、別の論理に基づく考え方を学ばせてもらいました。

都内に住んでいた人がカヤックに就職して鎌倉に移住するケースもありますよね。鎌倉という土地で、働く人は変化しますか。

柳澤はい。特に大きく変わるのは時間に関する考え方ですね。これは鎌倉に限らず地方独特のものでしょうけど、東京は常に速く、常に大きくという理屈で動いている。けれども鎌倉はそれよりもゆったりしているので。ちょっと立ち止まって考えるとか、本当に自分のやりたいことは何だろうか、という意識は高まりますね。余計なことやムダなことは、逆にやらなくなる。それはみんな言います。

 もちろん奥まった土地だったらいいというわけではなく、人が集まる都会の良さは当然あります。しかし、コンテンツづくりは右脳的な要素が強くて、左脳で全部を語らない。その点からすると、僕らにとって鎌倉という土地はプラスに働いています。