「地域資本主義」を鎌倉から発信

柳澤さんは2018年に書かれた書籍『鎌倉資本主義』で、地域における経済活動を「地域経済資本」、地域における人のつながりを「地域社会資本」、土地の自然や文化を「地域環境資本」として捉えることで、日本の地域を面白くしていこうという提案をしています。コンテンツ事業を手掛けていたカヤックが、鎌倉をはじめ地域や地方を盛り上げることに目を向けた理由は何でしょうか。

柳澤僕らは「面白法人」という言葉が最初にあって、その言葉に惹かれて集う人がいて、その言葉を使って純粋に自分たちの心に問う。つまり、常に「どっちが面白いんだろうか」という問いかけをしているんです。

 面白いということの要素はいろいろあると思うのですが、「新しい」は重要です。ですから、「こっちの方が新しい」という感覚については、カヤックにいるみんなは敏感なほうだと思うんです。

 ひるがえって日本全体を見てみると、「経済的に成長してモノをたくさん買って」という世界観が、新しいものではなくなったと思うんですよね。人は新しいものについて面白いと感じ、そこに人が集まる。「地域や地方が今面白い」という感覚を持つ人が増えた背景には、多くの人の感覚がぐるっと一周して、「地域や地方って新しいよね」と理解するようになったということだと思うんです。

つまり、多くの人がモノやお金に基づく価値だけがすべてだとは思わなくなり、その1つの現れとして、地域や地方に注目が集まるようになったということですね。最近、「幸福学」といったキーワードで、人の幸せを企業経営や経済的な観点から議論する向きが増えていますが、地域のあり方と人の幸せについて、どう考えますか。

柳澤幸せの価値観って、物理的な環境をより良くしていくことによって幸せになるという方向感と、心を成長させて幸せになるという方向感の2つがあると思うんです。

 その幸せを個人という単位で考えていくと、「何をするか」「誰とするか」「どこでするか」という3つは、すごくリンクしています。

 まず、地域資本主義は、お金を扱う資本主義を否定していません。個人の単位で考えると、お金を稼いでお金を増やし物質的に豊かになることも、幸せの大きな要素だからです。

本社屋(写真の左右)前の私道にて。横断歩道に描かれているのはカヤックのアイコン(写真:筆者)

 ただ、今の時代、年収さえ高ければいいのか、どんな方法で稼いでも幸せなのかというと、そうでもない。つまり「何をするか」も重要です。自分が好きだと感じることや、自分が得意なことを選択することが、幸せに生きるには大事です。

 また、仕事時間がそこそこ長いのであれば、それを「誰とするか」、つまり一緒に働く仲間がどんな人なのかも、幸せを増やすうえで重要になってきます。

 加えて「どこでするか」、つまりどこで働くかという点も、幸せを増やすには重要です。どうせ長時間過ごすなら、好きな場所で働きたい。もっと言えば、好きな場所に住んだうえで、その場所で働きたい。家族ができたら、なおさら家と職場が近いほうが安心です。だからなるべく職住近接が望ましい。

 それに、それぞれの土地には代えがたい価値みたいなものがある。人のつながりとか、目に見えにくい文化みたいなものですよね。物理的な環境も入ります。例えば鎌倉は、駅に降り立ったときの空気感がいいし、空は近いし、緑も海もある。

 人間は物質面でも、心の面でも、幸せを追い求めている存在だと仮定すると、仕事内容と物理的な報酬、人間関係、場所という3つをうまくリンクさせることは大事です。また、世の中全体も、3つをリンクさせるような方向に必然的に動いていくんじゃないかと直感的に感じています。

 今、日本の地域は東京との比較ばかりで計られがちですが、地域ならではの特性を生かして、経済を活性化し、人を幸せにしていくことは十分可能なんじゃないかと思っています。そのための考え方が、地域資本主義です。

企業も地域や人と付き合う中で変わる

働く人や企業は、地域資本主義の中でどういう位置づけになるのでしょう。

柳澤まず企業は、従来どおりお金を稼ぎ、地域経済資本を増やすことが基本です。それに加えて、働く社員の社内外のつながり、つまり地域社会資本を増やすことにもコミットする。そのうえで、地域に根ざす企業として、地域の行政や民間団体とも協力して、地域環境資本を増やすことにもコミットする。

 企業で働く個人という視点で見ても、その地域で一緒に働き、暮らす仲間が楽しいほうが、生産性が上がりやすいはずです。地域全体として捉えても、その地域が好きな人が勤める企業が集積すれば、地域のコミュニティーは活性化しやすい。

 そのようなコミュニティーが活性化すれば当然、地域の環境資本にも寄与します。総じて、その地域の資本が強化されていく。

 これが日本の各地域で進んでいけば、「まち」はそれぞれ特徴的なまちになる。日本全国に二つとない個性的なまちが出来上がる。海外から見た場合には、日本は観光地としてより多面的な魅力が生まれます。国内での移動も活発になり、個性的なまちを住み分ける多拠点居住も盛んになっていく。こうやって日本全体をもっと面白くすることは十分可能だと思うんです。

人によって成り立っている産業界は、人々の「何に幸せを感じるのか」という感性の変化を取り込まないといけない。だから、利益追求型の組織だった企業も、人の変化に応じて変わらなければいけないということですね。

柳澤ゲームのルールが変わるということなんだと思います。増収増益に向けてみんな頑張るという姿から、もうちょっと稼ぎ方にこだわりましょうという時代に突入しつつあるということでしょうね。

カヤックは地域資本主義を推進するための具体的な方法論も提示し始めました。デジタルを使ったコミュニティー通貨の「まちのコイン」や、移住したい人と移住先を結びつけるマッチングサービスの「SMOUT(スマウト)」などです。次回、具体的な取り組みについていろいろと伺います。

 (次回・後編は、面白法人カヤックが鎌倉を足場に取り組んでいる、日本の地域を盛り上げるための具体的な方法について聞いています)