地域固有の魅力を、お金だけではない観点から捉える「地域資本主義」を提唱しているのが、鎌倉に本社を置くIT企業・面白法人カヤックだ。デジタル地域通貨や移住のマッチングサービスなど、人と地域の「つながり」を増やすための個性的な仕掛けについて見ていく。
人が暮らし、働く、それぞれの地域。各地域が備える個性を捉えるための新しい考え方、「地域資本主義」を提唱しているのが、コンテンツ開発企業の面白法人カヤックだ。同社は上場企業として唯一、神奈川県鎌倉市に本社を置く、非常にユニークな企業である。
カヤックは地元・鎌倉での活動をベースに、「鎌倉資本主義」を提唱。その概念を拡張して地域資本主義と銘打ち、日本全国を盛り上げようとしている。
鎌倉資本主義および地域資本主義の特色は、地域それぞれの価値を、金銭的・物質的な価値以外の側面も資本と捉えるところにある。具体的には次の3つの資本、(1)金銭的・物質的な価値を見る「地域経済資本」、(2)人のつながりに着目する「地域社会資本」、(3)土地の文化や自然を評価する「地域環境資本」、から捉える。
カヤック創業メンバーの1人、代表取締役CEO・柳澤大輔氏は、「その地域の特性を生かして、経済を活性化し、人を幸せにしていくことは十分可能なんじゃないか。そのための考え方が、地域資本主義だ」と語る。前回の記事では柳澤氏の話を通じて、鎌倉という土地の魅力、そして人を幸せにする組織や地域のあり方を探った。今回はカヤックが鎌倉という地元を通じて開発した、「まち」を盛り上げるためのデジタルツールの話を聞いた。
1998年、面白法人カヤック設立。鎌倉に本社を置き、ゲームアプリ、各種キャンペーンアプリやWebサイトなどのコンテンツを数多く発信。さまざまなWeb広告賞で審査員をつとめる務める。ユニークな人事制度やワークスタイルなど新しい会社のスタイルに挑戦中。2018年11月、地域から新たな資本主義を考える「鎌倉資本主義」(プレジデント社)を上梓。2019年12月にまちづくりに関わる人のためのオンラインサロン「地域資本主義サロン」を開始。
地域通貨で「人のつながり」を盛り上げる
前回は、カヤックが根ざす地元・鎌倉での活動をベースに提唱した「鎌倉資本主義」と「地域資本主義」の全体像について伺いました。カヤックでは、この考え方に基づいて、地域の価値を高めるための具体的な方法も提示しています。
柳澤氏(以下敬称略):はい。2019年はいろいろな取り組みをしてきましたが、その代表例の1つが「まちのコイン」という地域通貨のシステムです。2019年11月から12月にかけてはこのシステムを活用して、神奈川県の「SDGsつながりポイント」という事業の実証実験を鎌倉で行いました。
短い期間でしたが、合計で、約800人が使ってくださいました。この春には小田原市でも実証実験を進めていただけることになっています。
まちのコインにはどんな特徴があるのでしょうか。
柳澤:地域における「人のつながり」を増やすための仕組みとして設計しています。コインはまさに人のつながりを増やすことや、SDGsに関わることに使えます。
まず、参加した一般ユーザーはスマホにアプリをインストールすると、最初にコインを500ポイント付与されます。さらに、例えば、地域のクリーンイベントに参加することでもコインを取得できます。
コインはちょっとした相談ごとに乗ってもらうとか、食堂で見知らぬ人とテーブルを一緒にして食べるとか、地域のフードロス削減に貢献するような買い物などに使えます。鎌倉での実証実験には20ほどのお店や団体が参加してくださいました。
まちのコインの流通量が増えれば、そのまちにおける人のつながりが増えていると考えられます。そういう地域は「熱い地域」だと言えます。