昨秋、茨城県で開催された国体で、史上初めて都道府県対抗によるeスポーツ大会が行われた。地方自治体によるeスポーツの全国大会は史上初。eスポーツが地域活性化の目玉の一つとして注目されるなか、eスポーツによる地域社会への貢献をめざし、東日本電信電話(NTT東日本)が新会社「NTTe-Sports」を設立した。自身もプレーヤーとして活動している同社取締役副社長の影澤潤一氏に、地方創生におけるeスポーツの可能性について聞いた。

「NTTe-Sports」取締役副社長の影澤潤一氏

新会社設立のキーパーソンは、“社員ゲーマー”

 新会社はNTT東日本のほか、西日本電信電話(NTT西日本)、エヌ・ティ・ティ・アド(NTTアド)、NTTアーバンソリューションズ、スカパーJSAT、タイトーが共同出資し、2020年1月に設立された。新会社の副社長に抜擢された影澤氏は、格闘ゲームの実況やイベントの主催も行っている有名なプレーヤー。その存在が、新会社設立のきっかけの一つになったほどのキーパーソンだ。

 NTT東日本の一社員だった影澤氏は、ゲーマーとしての活動が会社に知られたことから、社内のeスポーツ事業に初期から中心的に関わってきた。影澤氏は「我々のミッションの大きな目的は地域活性化です。自治体や企業の皆さまのeスポーツへの期待が高まっている中、eスポーツで何が事業として行えるのか、検討を始めたのが第一歩でしたから」と語る。

 「eスポーツで地域を活性化できないか」という相談が増えていることを受け、2018年秋に社内でeスポーツのプロジェクトチームを結成。2019年3月からはNTTアドと連携し、eスポーツ施設やイベントにおけるICTソリューションの提供、イベントの企画運営支援などを行ってきた。

 eスポーツ界においてNTT東日本が存在感を示したのは、2019年3月に東京・秋葉原で開催された「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」のグランドファイナルだ。会場のICT環境の構築に加え、仙台市のパブリックビューイング会場へのライブ配信を行い、秋葉原と仙台の観客同士のオンライン対戦も可能にした。通常はインターネット網を経由するため、中継は数秒から数十秒のタイムラグが出るというが、相互に閉域網でつながるNTT東日本の拠点を使うことで、中継におけるタイムラグを10分の1程度にまで抑えることに成功した。

(資料:NTT東日本)
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 遠隔対戦や試合映像の配信が重要なeスポーツにおいて、こうした高品質で安定した通信ネットワークやICT技術を提供できることは大きな強みだ。しかも、もともとNTT東日本、NTT西日本は各自治体や地域に支店を持ち、地域密着型の営業体制を持つ。新会社設立は、そういったNTTグループの強みを軸に、より幅広く、効率的かつ機動的にeスポーツ事業を推進していくため組織強化を図った。NTTグループの本気の表れだ。

トータルソリューションで地域活性化をめざす

 eスポーツを通じた「新たなつながりや体験」の創出、新しい文化や社会の創造、地域活性化への貢献をめざす新会社では、施設構築・運営、人材教育サポート、プラットフォーム構築、イベントソリューション、街の活性化コンサルティングを事業の柱としている。

 「人を呼び込みたいのであれば“イベント”、若者に対して何かやろうとしているのだけれど、その方策がわからないのであれば“人材教育のサポート”、コミュニティの拠点を作りたいのであれば“施設”、というように、それらを組み合わせながら、それぞれの自治体や地域によって異なる課題解決のコンサルティングを行っていくことが、我々の事業の大きな柱です。NTTグループの強みを生かして地域のコミュニティを支え、新たなカルチャーとして多くの人々が楽しめるeスポーツシーンのさらなる発展に貢献していきたい」と影澤氏は話す。

(資料:NTTe-Sportsの会社案内より)
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 施設構築で目玉になるのは、秋葉原UDXに開設予定(2020年7月以降)のeスポーツ施設だ。

 「先進的なICT技術を盛り込んだ、ショールーム的なeスポーツ事業のコア拠点を作り、コミュニティの場として、企業だけでなくプロ選手にも貸し出すことを考えています。ただ場所を貸すのではなく、例えばサポートの一環として月1回はプロチームが指導する機会を設けたり、地域の拠点ともつないだ付加価値の高いイベントを開催したり、といったことができるといいなと思っています」(影澤氏)

 この拠点施設は、ショールーム的な役割も担う。地域にeスポーツの拠点をつくりたいと考える人たちが実際に見て施設のイメージを具体化し、その上で各地域の特性やニーズに合わせてカスタマイズしていくための“たたき台”としての役割だ。そのカスタマイズの部分の提案を重視する影澤氏は「判で押したようなeスポーツ施設を各地につくるつもりはありません。我々の技術とアイデアで、その地域の特性に合った形を提案していきたい」と話す。

 人材育成サポート事業では、高校の部活動支援が横須賀市などでスタートした。ネットワークの環境だけではなく、指導するためのカリキュラムづくりや対外試合のマッチングまで含めたトータルなサポートをめざすという。まず高校から始め、いずれは高齢者や障害を持つ人向けの教育カリキュラムの提供など、福祉・介護分野にも広げていく考えだ。