eスポーツを部活動として取り組む高校が増えるなか、横須賀市が市内の高校に「eスポーツ部」を設立する支援を始めた。企業と協力して高性能のゲーム用パソコンを3年間無償で貸し出し、継続的なバックアップを行う。eスポーツで地域活性化をめざす自治体は少なくないが、同市によると、自治体によるeスポーツの部活動支援は全国初の試みだという。なぜ部活動支援なのか。教育としてのeスポーツを基軸に、コミュニティの活性化を狙う横須賀市の試みを取材した。

高性能ゲーム用パソコンを3年間無償で貸与

 横須賀市が「Yokosuka e-Sports Project」として、市内の高校にパソコンの無償貸与を始めたのは2019年12月。半導体大手のインテル、ゲーム用パソコンメーカーのMSI Computer Japan、NTT東日本、パソコン・周辺機器販売のTSUKUMOの4社の賛同を得て実現した。

 貸与するのは、ゲームをプレイするのに特化したハイスペックなデスクトップパソコンと液晶ディスプレイ、キーボード、マウス、マウスパッド、ゲーム用の椅子だ。最大5台まで3年間無償で、市内の高校の部活、同好会または同好会に準じるチーム活動に貸し出す。また、ネットワークやセキュリティに関するコンサルティングも無償で行う。

 市内にある13の高校のうち、現在、私立の三浦学苑高校と湘南学院高校が導入し、既に活動をスタートしている。また、市立、県立の2校でも準備中で、県立高校は定時制の部活動として導入を予定している。4校とも新しくeスポーツ部を立ち上げるのではなく、既存の情報処理系の部活動の一環としてeスポーツを行っていく。

2019年12月の記者会見で「Yokosuka e-Sports Project」の開始が発表された(写真提供:三浦学苑高校)
[画像のクリックで拡大表示]

 高校生のeスポーツといえば、2018年に全国高校eスポーツ選手権が行われ、初開催にも関わらず153チーム(同じ高校の生徒がチームを組んで出場、1つの高校から複数チームが出場可)が参加し、注目された。2019年には228チームがエントリー。NTT東日本によると、通信制を中心に全国で約120以上の高校にeスポーツを行う部活動が出来ているという。

 eスポーツの種目にはシューティングゲーム、格闘ゲーム、デジタルカードゲームなどさまざまなジャンルがあり、1人でプレイするものだけでなく4~5人のチームで戦うものもある。例えば、全国高校eスポーツ選手権で競技されるゲームは、3対3で競う「ロケットリーグ」と、5対5で対戦する「リーグ・オブ・レジェンド」の2種目となっている。「ロケットリーグ」はバトルカーと呼ばれる車を操作してサッカーを行い、得点を競う。「リーグ・オブ・レジェンド」は、1人ずつ能力の異なるキャラクターを操作し、協力して敵チームの本拠地に攻め込み、先に相手の本拠地を破壊したチームが勝ちとなる。どちらも個々の操作性の技術以上に、チームワークや戦略が勝敗のカギを握る。

生徒が自分たちでゲーム依存症防止策を決定

 市のプロジェクトにいち早く手を挙げた三浦学苑高校では、部活動の一つである「情報研究会」でeスポーツに取り組み始めた。情報研究会の主な活動は、資格取得、情報系の各種大会やコンテストへの参加、学校の活動の情報発信で、オープンスクールなどで地域の小学生向けのパソコン教室も開催している。1、2年生13人の部員のほとんどがeスポーツの大会で行われるようなオンラインのパソコンゲームはプレイしたことがなく、まずは操作に慣れるところから練習を重ねている。

 同会会長の岡﨑富夫さん(2年)は「大会が数多くあるリーグ・オブ・レジェンドなど3つのゲームを選び、YouTubeのプロゲーマーの動画をみんなで見ながら、手探り状態で練習しています。最初はゲームができてうれしいと思いましたが、プレイ中に考えることがとても多くて難しく、そんな気持ちは吹き飛びました。全国高校eスポーツ選手権をはじめ、さまざまな大会に出て予選を勝ち抜き、決勝大会まで行くことを目標に練習を重ねていきたい」と話す。

 三浦学苑は普通科と、神奈川県の全日制私学では唯一の工業課程となる工業技術科があり、なかでも情報技術者の育成をめざす情報コースの生徒は授業でもパソコンを使うことが多い。情報研究会は情報コースの生徒が多く、ネットワーク環境も含め、eスポーツを導入する下地はそろっていた。工業技術科の実習で使っていた教室に貸与されたパソコン5台を設置し、eスポーツ専用の部屋を作ることができたのも、そんな環境があってこそだ。

 eスポーツ導入を積極的に推進した同会顧問で工業技術科長の前田豊教諭は、「生徒の想いを表現できる場として、部活動の枠を超える活動をしていきたいと、4年前に情報研究会を立ち上げました。eスポーツをやってみたいと思ったのは、ゲームの話でコミュニケーションをとることの多い部員たちを見て、ゲームを趣味で終わらせるのではなく、プラスになる活動にしていけたらと考えたからです。eスポーツを通し、さらに発信力やコミュニケーション力を高めてもらいたいと思っています」と語る。

eスポーツの練習を行う三浦学苑高校情報研究会の会員たち(写真提供:三浦学苑高校)
[画像のクリックで拡大表示]

 もちろんゲーム依存などeスポーツのネガティブな面を懸念する声も学校内にあったというが、「これまで自主性を持って活動してきた情報研究会の部員たちが取り組むことで、ポジティブなイメージに変えることができると思いました」と前田教諭は話す。

 同会ではeスポーツを始めるにあたり、部員が自分たちでゲーム依存を防ぐ方策を考えた。パソコン検定試験(P検)準2級に合格しないとゲームはできないなどの決まりを作り、活動時間内はそれぞれが役割分担している従来の活動を優先し、空いた時間に計画的にeスポーツに取り組んでいるという。「eスポーツを始めてから『あの時、こうすればよかった』『こうできたよね』という会話が度々飛び交っています。ゲームを通して部員の考え方や性格がわかり、より仲が深まった感じがあります」と岡﨑さん。同会以外の生徒からも「頑張って」と応援されているそうだ。既に2020年度の新入生の中には、eスポーツがやりたくて志望してきた生徒も数人いるという。

──記事冒頭の画像:部活で互いに切磋琢磨し、憧れの大会出場を目指す(イメージ) original image: Parilov / stock.adobe.com