徳島県三好市で、地域おこし、そして福祉にまつわる社会課題の両方を同時に解決しようというプロジェクトが進められている。その名は「MEUTRAL(ミュートラル)」。三好市で半世紀にわたり社会福祉事業を展開している池田博愛会、そしてNPO法人Ubdobe(ウブドベ)による共同プロジェクトだ。その取り組みを追った。
四国の内陸部にある徳島県三好市。日本三大秘境の一つである「祖谷(いや)渓」がある、知る人ぞ知る旅行地だ。2017年末には米旅行雑誌「トラベル・アンド・レジャー」が、「2018年に訪れるべき50の旅行地」に、この祖谷渓が日本で唯一、選ばれた。ここは四国でも有数の温泉地であり、国の重要有形民俗文化財「祖谷のかずら橋」がある。また、三好市内の中央を流れる吉野川は、ラフィティングなどのウォータースポーツの場としても知られている。
しかし地方の例に漏れず、人口減少と高齢化の問題を抱えている。2015年5月末の時点で、市内に442地区ある集落のうち179地区は、65歳以上が50%以上を占める限界集落だった。また、197地区は55歳以上が50%以上を占める準限界集落である(三好市の地域再生計画資料「三好市生涯活躍のまちづくり計画」より)。そのため介護・福祉に携わる人材が不足しており、働き手そのものの高齢化と併せて、地域の課題となっている。
そんな三好市で、地域の魅力に着目しつつ、介護・福祉人材の確保と地域おこしの両方を一挙に解決しようというプロジェクトが始まっている。プロジェクトの名は「MEUTRAL(ミュートラル)」。NEUTRAL(ニュートラル:中立的)の先頭の「N」に、三好市の「M」を当てた。この名には「健常者にも障がい者にも、あるいは若者にも高齢者にも偏らず中立的である」「三好では自然豊かな環境の中でニュートラルな状態になれる」というメッセージが込められている。
MEUTRALを推進している組織は二つ。三好市で半世紀にわたり社会福祉事業を担ってきた社会福祉法人池田博愛会と、「医療福祉エンターテインメント」を掲げ医療・福祉分野で様々な活動を展開しているNPO法人Ubdobe(ウブドベ)だ。
両組織は2017年から3年にわたり地域おこしと介護・福祉分野にまたがる活動を進めてきたが、その目玉となる企画のひとつが「クリエイティブ・コミュニティ・コーディネーター(CCC)」である。
介護・福祉と地域おこしのハイブリッド職
CCCとはMEUTRALで定義した新しい職種。介護・福祉分野の仕事と地域おこしの仕事の両方を担う、いわゆるハイブリッド型の就業形態となっている。
基本的な勤務日数の割当は、高齢者向け施設や障がい者向け施設を運営する池田博愛会での業務が週3日。そしてUbdobeにおける地域おこし分野の業務が週2日となっている。
地域おこしに関する業務としては、三好市内の地域交流拠点「箸蔵(はしくら)とことん」におけるイベントなどの企画の立ち上げと運営、三好エリアへのツアーの企画と運営、SNSやWebを通じた情報発信などだ。
またCCCには、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)にまつわる企画立案の仕事も期待されている。このサ高住は、三好市内で2020年度内の完成に向けて建設計画が進んでいるもの。募集する入居希望者層が特徴的で、特例を適用して少し若めの40歳代以上を対象としている。イベントスペースなども設け、サ高住を核とした多世代型コミュニティの形成と、中長期にわたる地域の活性化を狙っていく。
すでに池田博愛会の2人の若手人材がCCCとして働いている。木村公明さんと島和也さんだ。この2人がそれぞれ担っている福祉関連の業務は、移動販売や、福祉関連施設での障がい者支援業務。また地域おこしの仕事も同時並行で進めている。
なぜ、このような職種を設けたのか。MEUTRALのプロジェクトを主導する池田博愛会法人本部事務局副部長の岡千賀子さんは、「地域の社会課題、そしてUターン・Iターン・Jターンを望む若い方々の潜在的なニーズといった、複数の要素をマッチングする方法として、新しい職種であるCCCを企画した」と説明する。
「三好にCCCとして活躍する人を増やしていくことで、三好をもっと盛り上げることができるのではないか。それがこの企画の狙いだ」(岡さん)。
また、岡さんは「介護・福祉の仕事は、地域おこしの仕事にも非常に役立つと考えている」と語る。
岡さんは小売業での勤務経験も踏まえて、介護・福祉の仕事は「とても個人に近い仕事だ」と言う。行動に制限を抱えている高齢者や障がい者へのケアと交流は、活発な若者や健常者にはなかなか気づきにくい、まちの不便な点や改善すべき点に気づきやすくなる。つまり、日々の介護・福祉の仕事が、まちを住みやすく変えるためのヒントやアイデアにもつながるという考え方だ。
池田博愛会と共にMEUTRALプロジェクトを進めているNPO法人Ubdobeの萩原頌子さんは、「本来、まちにはいろいろな人がいることが普通で、いろいろな人の声が反映されて住みよいまちができる」と語る。「まちづくり、地域おこしの当事者として、高齢者も障がい者も加わっていてしかるべき。高齢者や障がい者を巻き込み、その声を地域に反映させる存在として、福祉分野の職に携わっている人たちは重要な役割を担っている」(萩原さん)。