新しい発想の缶詰が地元・高知の明日を作る

 砂浜美術館の見学を終えると、黒潮町缶詰製作所の工場に向かった。海から車で3分ほど。コンビニエンスストアを3、4軒つなぎ合わせたくらいのコンパクトサイズの工場だった。工場の看板にロゴがあったが、旗のイラストに「34M」の文字が踊っていた。衝撃的な津波の規模なのに、このようにユーモラスでさえあるデザインに落とし込む。高知の人の底力のようなものを感じた。

黒潮町缶詰製作所の工場。看板に描かれた旗のイラストには「34M」の文字が記されている(写真撮影は筆者)
黒潮町缶詰製作所の工場。看板に描かれた旗のイラストには「34M」の文字が記されている(写真撮影は筆者)
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 工場に入る前、友永さんが工場の裏にある、数m離れた小さな建物を指差した。

 「これがスタッフの控え室で、お弁当もここで食べるようにして、中にアレルゲンを持ち込まないよう徹底しています。事務所にパンを持ち込むのもNGです」

 卵焼きや海老マヨ、そば、サンドイッチなど、アレルゲンを含む食べ物が入った弁当などは一切工場には入れない。アレルゲンフリーの缶詰を作るには、そこから徹底しているのだ。

 友永さんに工場を案内してもらった。倉庫には数十種類の缶詰が保管されているが、どれも食欲をそそるものだった。

 高知を代表する黒潮の恵み「カツオと筍(たけのこ)のアヒージョ」、日本一の清流と言われる四万十川産の食材を使った「四万十うなぎ蒲焼」「四万十の鮎(あゆ) ガーリックオイル煮」のほか、「四万十ポークのネギ塩タレ」「土佐はちきん地鶏 バルサミコ仕立て」のような肉の缶詰、「黒糖の濃厚和ショコラ」など。メインディッシュになりそうなものから、総菜、デザートまである。筆者も何種類か食べたことがあるが、実際どれもおいしい。

こちらが黒潮町缶詰製作所の製品の一つ、「四万十うなぎ蒲焼」(写真提供:黒潮町缶詰製作所)
こちらが黒潮町缶詰製作所の製品の一つ、「四万十うなぎ蒲焼」(写真提供:黒潮町缶詰製作所)
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「原料に高知のものを使い、漁業、農業などの第一次産業とも連動しています。おかげさまでグルメ缶として高い評価をいただいており、東京の雑誌やテレビなどで紹介されることも増えてきました」

 工場内は衛生管理が徹底された環境で、主に近所の主婦の人たちが働いている。

「この近くの保育園にお子さんを預けて働いている人も数名います。地元に働ける場所を作るというのも当初の目的で、うまくいっていると思います」

黒潮町缶詰製作所のホームページ(写真提供:黒潮町)
黒潮町缶詰製作所のホームページ(写真提供:黒潮町)
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 高知の食材を使った缶詰の製造に携わり、そこで得たお金で子どもを育てる。缶詰が売れると、もちろん高知の農家や漁師など生産者にもお金が回る。取材前、下調べにホームページを見ていて「未来を作る新しい缶詰」というコピーを目にしたが、まさにこの工場は、日々の営みが未来を作っているのだった。

アレルゲンフリーの缶詰が未来の復興をつなぐ

 取材を終えて東京に戻り、3月になると新型コロナウイルスの影響は広がり続け、筆者の周囲でもさまざまなイベントが延期もしくは中止となり、オープンを見合わせる施設が増えた。仕事はリモートワーク、そして4月には緊急事態宣言が出た。高知では高知市内のアーケード商店街や公園が酒場になり、県外から多くの人が訪れる3月の大規模な酒飲みイベント「大おきゃく」が中止になるなど、観光産業に大きなダメージがあった。

 その頃に直面したのが、子ども食堂でのアレルギー問題だった。コロナの問題がなければ、そう深刻にはならなかったと思う。が、人々の不安感からトイレットペーパーやマスク、除菌用アルコールなどが店頭から消え、食料品も品薄になった時、黒潮町缶詰製作所から送られたアレルゲンフリーの缶詰が役に立った。

 小麦アレルギーの幼児を抱えるシングルママさんからは、こんなレシピを聞いた。

「親戚も近くにいないし、仕事と育児を一人でこなすのはいつも時間との戦い。この缶詰、例えばカツオと筍のアヒージョ缶は卵でとじてご飯に乗っけると丼になるし、野菜と和えるとサラダになる。子どもたちが喜んで食べてくれるし、それでいてアレルギーの心配がないというのが本当にありがたい。賞味期限が3年だからうっかり忘れても悪くなることがないし(笑)」

 そのことを友永さんに伝えると、こんな言葉が返ってきた。

「東京は銀座の『まるごと高知』というアンテナショップでうちの缶詰を売っています。『時間があったら買って備蓄して、思い出した時に料理に使って、また買って』みたいに、非常食というよりも日常のものとして長い付き合いをしていただけるとうれしいです」

 友永さんが語るのは、常日頃から保存可能な食材を買っておき、使ったら新しく買い足して、いつも一定量を備蓄しておくローリングストックの方法だ。

 この缶詰が全国のアレルギーに悩む子どものいる家庭に広がると良いと感じた。何しろ黒潮町の子育てママさんの収入源であるし、この缶詰を通じて全国とつながっておけば、もしものことがあっても、そこから新しい復興が始まるという予感がするからだ。

筆者 須田泰成(すだ・やすなり)
1968年、大阪生まれ。コメディライター&プロデューサー。テレビ、ラジオ、WEBの番組やコンテンツの脚本、構成、プロデュース多数。「スローコメディ広告社」代表。20歳の時に世田谷区経堂へ。2000年に、経堂の個人店と文化を活性化するプロジェクト「経堂系ドットコム」を立ち上げる。WEB「みんなの缶詰新聞」編集長。「経堂経済新聞」編集長。著者に『モンティパイソン大全』など。