「地域を持続可能にする」を起点に

田鹿さんは日南市のマーケティング専門官として、市のブランディング、企業の誘致、地元での起業家育成、地場企業への就職支援など、さまざまな仕事を手掛けています。地域の持続性を確保するという目標を掲げたうえで、人口動態分析をベースに戦略的なアプローチをとられてきたことが印象的です。

田鹿氏(以下、敬称略)歴史的に見ると、日南市の油津港は南蛮貿易や琉球との交易の拠点で、江戸時代は飫肥(おび)杉の搬出港として栄えました。2013年に当時33歳の﨑田市長が就任しましたが、ここ油津エリアは歴史的にも外から人が来ることについて寛容な土地なんです。

 私が日南市のマーケティング専門官として着任した時、﨑田市長の要請に基づき、まず「どうしたら日南市を持続可能にするか」を考えました。人口動態に着目しながら、地域を持続させるための手段として、20代から30代の若手を呼び込み定住してもらうこと、彼らのための仕事を創出すること、安心して子育てができる環境をつくることに取り組んできました。

 油津商店街に誘致したIT企業は、100人規模の雇用を生み出しました。従来なら「地元で働きたいけれども都会に出ざるを得ない」と思っていた方々に、地元で働ける環境をつくった格好です。

 また、最近はアプローチを少し変えて、日南市で新しいビジネスを立ち上げたいという起業家を誘致し、日南市での起業を支援しています。さらには地元企業の右腕となる人材を育成することにも取り組んでいます。

油津商店街に入居しているIT企業、ポート(本社は東京都新宿区)の日南オフィス。昔ながらの姿を引き継ぐ商店街を歩いていると、ガラスの向こうに洗練されたデザインのオフィスが現れるのは、意外性もあってなかなかのインパクトだ。同社は2016年4月に油津商店街に最初に入居したIT企業で、入居先には元々ブティックが入っていたという。同年のグッドデザイン賞を受賞している(写真撮影は筆者)
油津商店街に入居しているIT企業、ポート(本社は東京都新宿区)の日南オフィス。昔ながらの姿を引き継ぐ商店街を歩いていると、ガラスの向こうに洗練されたデザインのオフィスが現れるのは、意外性もあってなかなかのインパクトだ。同社は2016年4月に油津商店街に最初に入居したIT企業で、入居先には元々ブティックが入っていたという。同年のグッドデザイン賞を受賞している(写真撮影は筆者)
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地元の人には「再生していない」と言われた

地元の人たちは、油津商店街の活性化についてどんな評価をしているのでしょうか。

田鹿この前、地元の高校で授業を受け持ちました。28人くらいの生徒さんがいて、そこで「油津商店街が再生したと思う人は?」と聞いたところ、手を挙げた生徒が皆無だったんです。5人くらいは手を挙げてくれると思っていたのですが、さすがに全員とは思わなかった。

 実は、「商店街の再生」というと「昔の商店街の復元」を期待していた方々が多かったんです。だからこそ「これは再生ではない」と思っている人もたくさんいらっしゃいます。金物屋さんや布団屋さんや八百屋さんなどが並んで、そこに人がたくさん出てきて賑わっている、そのような昔の商店街をイメージしておられたわけです。

 しかし、私たちとしては、今のマーケットニーズに合うテナントを誘致して、地域の経済が持続的に回っていくような誘致をしなければ、かえって地元の皆さんをがっかりさせかねません。金物屋、八百屋を誘致したはいいものの、商売が立ち行かなくなって補助金が使われる、みたいなことになったら逆に市民の皆さんに迷惑をかける。そこで、必ずしも地元の人たちが想像する姿ではなかったとしても、地域が持続するために必要なことをやると決めて取り組んできました。ただ、高校のクラス全員が手を挙げなかったことには、ちょっとショックでしたね(笑)。

必要なことをしつつ、気持ちにも寄り添う

新たに誘致したIT企業に就職し、日南に定住した若手世代が、日南の店舗で買い物をしたりレジャーを楽しんだりと、地元の商売にも好影響はあるはずですよね。

田鹿地域にはいろいろな人がいて、その多様さゆえに地域が成り立っています。しかも、それぞれ立場も思惑も異なります。そのため、すべての要望に応えることは難しい。しかし、地元の皆さんが感じている気持ちのズレは無視できません。

 商店街の活性化が地域全体の恩恵となるという趣旨をしっかり説明し、それでも納得できないという人たちがいても、お話をしっかり聞いて、気持ちに寄り添う必要があります。

 バランスが大切なのです。私は7年間ここに住み、働いてきました。今のマーケットに合った取り組みを進める一方で、地元の人たちが抱いている「昔の賑わっていた商店街」への思いにも寄り添っていく。これがとても大事だと思うようになりました。また、これは都会に住みながらコンサルタントとして月に1回来るような関わり方では、絶対に見えてこない地域の姿でした。

人が幸せになる手段として地域がある

油津商店街の一角にある「油津コンテナガーデン」。六つあるコンテナ(各4坪程度)に、カフェをはじめとした店舗やIT企業のオフィスなどがテナントとして入っている。右写真は無人古本屋の「ほん、と」。店内には主に地元の人たちから寄せられた古本が並んでいる。本の支払いは店舗内のガチャガチャを使う。この方式は東京・三鷹の無人古本屋「BOOK ROAD」にならったという。なお「ひとまち結び」でもこちらのBOOK ROADを取り上げている(写真撮影は筆者)
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油津商店街の一角にある「油津コンテナガーデン」。6つあるコンテナ(各4坪程度)に、カフェをはじめとした店舗やIT企業のオフィスなどがテナントとして入っている。右写真は無人古本屋の「ほん、と」。店内には主に地元の人たちから寄せられた古本が並んでいる。本の支払いは店舗内のガチャガチャを使う。この方式は東京・三鷹の無人古本屋「BOOK ROAD」にならったという。なお「ひとまち結び」でもこちらのBOOK ROADを取り上げている(写真撮影は筆者)
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油津商店街の一角にある「油津コンテナガーデン」。6つあるコンテナ(各4坪程度)に、カフェをはじめとした店舗やIT企業のオフィスなどがテナントとして入っている。右写真は無人古本屋の「ほん、と」。店内には主に地元の人たちから寄せられた古本が並んでいる。本の支払いは店舗内のガチャガチャを使う。この方式は東京・三鷹の無人古本屋「BOOK ROAD」にならったという。なお「ひとまち結び」でもこちらのBOOK ROADを取り上げている(写真撮影は筆者)

油津商店街の活性化手法は極めてユニークですし、地域経済の持続性を高める有望な事例と見えますが、地元の方の反応はちょっと切ないですね。

田鹿確かに切ないですが、地元にずっと住んでいらっしゃる方の気持ちもすごくわかります。地域の活性化ってしばしば「結果の目的化」になっているなあ、と思っています。

 本当は地域に住む人たち、関わる人たちが活性化することで地域が活性化しますよね。なのに本来は結果であるはずの活性化を目的として取り組んでしまう。そうすると小手先のイベントなどで賑わいを求めてしまう。

 まちづくりの分野では「地域はこうあるべき」という論調になりがちです。その中で、「地域のために人が存在する」という考え方に偏ってしまうおそれがあります。

 けれども、本来的には逆です。人の幸せが先にあって、人が幸せになる手段として地域があるはずなんです。そこから考えていくと、前から地域に住んでいる人たちの気持ちは大切にしていかなければならないのです。