新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、人々の心にも負の影響を与えている。健康や体調は心の状態にも大きく左右されるので、実際にはなんの疾患がなくても体調を崩している人は少なくないだろう。ウイルス感染の広がりを抑えるために、今は人の移動を控えざるを得ない。だからこそ、いずれコロナ禍が過ぎ去ったあかつきには、心の健康を取り戻す旅に出かけたい。そんな欲求に応えてくれる新しい旅のスタイルが、沖縄から提案されようとしている。

積極的に健康を取り戻す旅のスタイル

 コロナ禍前の旅行の多くは、観光やレクリエーションなどを楽しむ体験型だった。日常から離れて楽しむことがストレス発散になる。コロナ禍後も、そういった目的で旅に出掛けるのもいい。だが、私たちの日常は、コロナ禍の前と後とで大きく変わっているかもしれない。特に、健康との向き合い方には大きな変化があるだろう。日常生活の中で、常に免疫力を高める、あるいは基礎疾患を抱えないような生活習慣を心がける人が増えそうだ。

 そうした新しい日常を迎えるにあたって注目したい旅のスタイルがある。観光やレクリエーションなどを楽しんでストレスを解消するだけでなく、積極的に健康を取り戻したり、健康への意識を高めたりすることを目的とした「ヘルスツーリズム(健康観光)」だ。

 ヘルスツーリズ厶とはまさに健康をテーマにした旅行で、四季折々の自然や食材、温泉などに代表される地域の豊かな自然を「健康資源」として体験したり、味わったりして楽しむ。日本には江戸時代から温泉地に長期間滞在して、特定の疾病を温泉療養で癒やす「湯治」という治療法があった。日本に限らず海外でも、療養を目的とした温泉を意味する「スパ」での温泉療法が古くから存在する。こうした習慣が、ヘルスツーリズムの原点と言えるだろう。

沖縄の豊かな自然に触れるだけでもストレス解消になる
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体と心の健康を取り戻すヘルスツーリズム

 そもそも「健康とはなにか?」という定義は難しい。単に病気ではない状態を指すこともできるが、それは体に限って言えることだろう。体が健康でも、心に大きなストレスを抱えている人を「健康な人」と言っていいのだろうか?

 健康をテーマにした旅行のスタイルとしては、ヘルスツーリズム以外に「メディカルツーリズム(医療観光)」といった分野もある。こちらは、自分が住んでいる場所では受けられない高度な手術や治療を受けることを目的にした旅であり、医師による診療行為までが含まれていることが多い。これに対して、2007年にヘルスツーリズムの推進を目的に立ち上がった日本ヘルスツーリズム振興機構では、ヘルスツーリズムを「健康・未病・病気の方、また老人・成人から子供まですべての人々に対し、科学的根拠に基づく健康増進(EBH:Evidence Based Health)を理念に、旅をきっかけに健康増進・維持・回復・疾病予防に寄与する」と定義している。ちょっと分かりにくいが、どうやら、診療行為までを含めた旅行はヘルスツーリズムの範疇を超えているようだ。

 また、コロナ禍前はダイエットやアンチエイジングなどのプログラムを組み込んだ旅行パッケージもあったが、それらは科学的な根拠に基づかないものもあると思われるので、ヘルスツーリズムの枠でくくるには難しそうだ。

健康指導だけでは人は集まらない

 日本では2008年から、内臓脂肪型肥満に着目した特定健康診査(特定健診)・特定保健指導の実施が医療保険者に義務づけられた。40歳以上75歳未満の被保険者や被扶養者は、特定健診の結果から生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善による生活習慣病の予防効果が期待できる場合は、専門スタッフ(保健師、管理栄養士など)が生活習慣を見直すサポートをする。この制度によって、対象者は無料で健康になるための指導を受けられるのだが、実際にはどのくらい利用されているのだろうか。

 筆者もこの制度が始まってからほぼ毎年メタボリックシンドローム指導の対象になっており、特定保健指導を受けることにしているが、なかなか指導通りの生活ができない(指導の効果があれば、毎年受ける必要もないはずだが…)。なぜかと言えば、やはり指導の内容が楽しくないからだ。これまでの生活習慣を変え、いろいろなことを我慢しなければならないし、たとえ簡単な運動でも毎日続けるのは大変だ。

 ヘルスツーリズムであっても、プログラムが単に宿泊施設に閉じこもって、ひたすら運動をしたり食事制限を受けたりするようなものなら、人はなかなか集まらないかもしれない。

沖縄は国内でも肉類を比較的多く食べる土地ではあるが、バランス良く合理的な食材を使っているので健康的だ
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