東日本大震災から10年あまり──。震災復興に取り組む岩手県陸前高田市は、持続可能なまちづくりに取り組む都市として「SDGs未来都市」に選定されている。しかし、震災復興とSDGs達成に向けた取り組みを同時に進めているのはなぜなのだろうか? この疑問に対する答えやこの春完成した新しい市庁舎に込めた想いについて、陸前高田市および市庁舎の設計に携わったNTTファシリティーズの担当者に話を聞いた。

SDGs達成をめざす数多くのまちの中でもユニークな存在の陸前高田市

 震災復興を進める岩手県陸前高田市は、2019年7月、岩手県で初めて『SDGs未来都市』に選定された。なぜ陸前高田市が『SDGs未来都市』をめざすのか?その理由を政策推進室 政策広報係長 菅野隼氏は次のように語る。

 「私たちは『ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり』をめざして、東日本大震災からの復興に取り組んできました。この目標は高齢者や子供、障がいのあるなしにかかわらず、すべての市民が生き生きと笑顔で暮らせるまちを形成しようという理念で、SDGsの『地球上の人を誰1人取り残さない』という基本理念と合致します。そこで震災復興と共にSDGs実現に向けた取り組みを進めようと考え、内閣府が選定する『SDGs未来都市』の候補として手を挙げたのです」

陸前高田市 政策推進室 政策広報係長 菅野 隼氏
陸前高田市
政策推進室 政策広報係長
菅野 隼氏
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 そして、「SDGs未来都市」実現に向けた計画では「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」を実現するため、「経済」「社会」「環境」の3つの観点でさまざまな事業に取り組んでいく。

 「まず、経済的な取り組みとしては、震災で壊滅的な被害を受けた産業の復興と共に、障がいのある方の産業への受け入れを図っていきます。社会面では、まちの復興や活性化を目的に、ユニバーサルデザインを取り入れた施設の整備や国内外のパラアスリートとの交流促進に注力します。環境面では、震災時に『奇跡の一本松』を残して倒壊した名勝地『高田松原』の再生をはじめとする陸と海の整備と保全や、再生可能エネルギーの活用などを進めていきます」(菅野係長)

市の事業者と大学生が参加したワークショップで生まれたもの

 2020年には「SDGs未来都市」実現に向けた取り組みの一環として、「SDGs推進連携協定」を締結している法政大学の学生とのワークショップを開催した。

法政大学の学生と行ったSDGsワークショップの模様はオンラインでライブ配信された(画像提供:陸前高田市)
法政大学の学生と行ったSDGsワークショップの模様はオンラインでライブ配信された(画像提供:陸前高田市)
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 オンラインで開催されたワークショップでは、市内の4事業者が抱える課題に対して学生たちがSDGsの視点で解決策を提案するなど、活発な意見交換が行われた。例えば、ワークショップに参加した文房具店に対し、市内に居住するアーティストとコラボレーションしてブックカバーを制作するなどのアイデアが挙がったとのこと。

 「そのアーティストの方は障がいのある方で、まさに『ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり』を体現するアイデアでした。ひとつの事業者の取り組みで完結させず、周りを巻き込む提案は印象深かったですね」と菅野係長はワークショップを振り返る。現在、このブックカバーのアイデアは、実際に製品化に向けた取り組みが進んでいるという。

SDGsワークショップのアイデアを活かして製品化されたブックカバー。(画像提供:陸前高田市)
SDGsワークショップのアイデアを活かして製品化されたブックカバー。(画像提供:陸前高田市)
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 「市内には大学がないので、大学生の意見を聞く貴重な機会になった」「学生の発想に触れ刺激になった」「学生と話をすることで、自分の中の考えが整理され、より具体的なイメージを持てるようになった」とワークショップに参加した事業者の評価も上々。同市では、本年度以降も同様の取り組みを継続するべく、計画を進めているところだ。

 以上のような取り組みについて、「SDGs達成をめざす都市の多くは、どちらかというと環境課題の解消に取り組むところが多いように見受けられます。そんな中、『ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり』という社会的な課題の解決をめざしている私たちの取り組みは、ユニークな存在ではないかと考えています」と菅野係長。

 また、SDGsで掲げられている11番目のゴール「住み続けられるまちづくりを」を達成する上では、災害に対する強靭性を高めることが求められるが、同市は震災の被災地として防災意識が非常に高いことも特徴だ。以上のような観点からも、同市の取り組みは世界的に見ても注目に値するものだといえよう。

 これからも法政大学との活動のほか、地元の事業者間の連携を図るために組織した「陸前高田市SDGs推進プラットフォーム」の強化や、時速20km未満で公道を走る電動バス「グリーンスローモビリティ」の導入、太陽光エネルギーや市内の8割を占める森林資源を活用したバイオマス発電システムの整備、障がいのあるアーティストの作品の活用などを通じて、障がいに対するバリアをなくす取り組みなどを進めていく。今後の展開にますます期待が高まる。

2020年11月に行った実証実験の様子。人口減少や高齢化が進む中、日常生活における交通手段の課題解決に向け、環境への負荷が少ないグリーンスローモビリティの導入をめざしている(画像提供:陸前高田市)
2020年11月に行った実証実験の様子。人口減少や高齢化が進む中、日常生活における交通手段の課題解決に向け、環境への負荷が少ないグリーンスローモビリティの導入をめざしている(画像提供:陸前高田市)
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