ZEB化のコストを3年で回収

当初案と比べて建物の外皮はどう変わったのでしょうか。

吉松 当初案のメインファサードでは施工性を考慮して、仕上げ材となるアルミ板の間に断熱材のスタイロフォームを挟んだ製品を採用していました。ZEBを目指すことになり、さらに内側へ厚さ20mmの硬質ウレタンフォームB種を吹き付けました。

屋根面には57.75kWの太陽光発電パネルを載せています。例えば敷地内の空きスペースに平置きするといった方法はなかったのでしょうか。

鈴木 工場内には実はスペースのゆとりがありません。構造上の負担も考慮した上で、増築する事務所棟の屋根面で確保できる最大量を載せました。

吉松 当初案は屋根に人が上がらない仕様にしていました。この規模の建築では、屋根にコンクリートを敷かずに軽量化を図り、躯体(くたい)の鉄骨量を抑えてコスト削減するのが一般的です。ZEB化に当たっては、できるだけ太陽光発電パネルを並べ、来客にも見学してもらえるようにしたいという要望もありました。しかしコスト面などを検討した結果、非歩行仕様のままで最大限載せられるパネルを設置することにしました。

 このほか2階の執務エリアでは、カーペットを通して空調空気を染み出す方式を採用しています。一方、階段から続く打ち合わせスペース回りをフローリング仕上げとしたため、空調効率を勘案しながらそれぞれの面積や家具の配置を調整しました。

2階の執務エリア(写真:小林 浩志)

今別府 ZEB化に伴いコストアップするので、環境省の補助金(ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業)の活用が必要と考えました。そこでZEBプランナーのアール・エ北陸(富山市)にチームに入ってもらい、補助申請業務やその後3年間求められるデータの取りまとめをなど依頼しています。

 今回は放射パネルやマイクロ水力発電をはじめとする多様な技術要素を取り入れていますが、それらは必ずしも補助金の対象にはなっていません。

 1次エネルギー消費量の計算では「創エネを除く1次エネルギー消費量の削減率」を、途中段階の45%からZEBの条件となる50%まで引き上げるのが大変でした。その点、ZEBプランナーはWEBプログラムの計算手法に関するアイデアを豊富に持っています。例えば給湯を太陽熱利用のシステムに変えると性能が2%ほど向上すると提案してもらったので、即、採用しました。

 結果的に、ZEB化のために投じた設備費から補助金を相殺したコストの純増分は、当初案と比較したランニングコストの削減によって3年以内に回収できる計算となりました。事業としてもうまくいきました。

2018年11月に本社事務所棟が完成して8カ月ほど経過しました。社員の反応はどうですか。

片山 俊樹氏(テラル取締役総務部長) 室内が「暑い」「寒い」という声は多少出ますが、以前と比べて全体的に快適に過ごしているのは間違いありません。特に冬場、足元が寒くて頭だけ暖かいといった状況がなくなりました。これまで分散していた部署をワンフロアの大空間に集め、打ち合わせコーナーもあちこちにつくったので部門間の打ち合わせがしやすくなったのもメリットの1つです。

今別府 補助金を受けると3年間の報告義務があるので、使用後もしっかり運用していかなければなりません。これも補助金の効用と言えるでしょう。

 ここでは大林ファシリティーズ(東京・千代田)に常駐してもらい、室内環境やエネルギーの使い方を日常的にチェックしながら調整していく体制をとっています。執務エリアでは西側の室温がやや高くなる傾向がありますが、場所によって室温の差が極端に大きくならないよう担当者の行竹さんが上手にコントロールしてくれています。

行竹 優氏(大林ファシリティーズ・テラル管理事務所) 現在、空調は基本的に中央監視でコントロールしていますが、会議室の温度管理は利用者に委ねている状況です。またポンプの運転は私が判断しながら制御しています。

 こうした部分まで中央で自動制御するシステムを構築すれば、消費エネルギーはもっと削減できるでしょう。ただし社員の皆さんがZEBを意識し、かなりこまめに空調を入り切りしています。今のところ、そこまでの自動化は必要ないと感じています。

今別府 ブラインドも社員が自分たちの判断で開け閉めしています。中央管理すればもっと効率的にはなりますが、自分でコントロールできるものがあったほうが社員の満足度は高まる。今後は緑化など、工場全体としての執務環境を高める取り組みを進めていきたいと考えています。

設計事務所としては、ZEBに関する業務の今後をどう捉えていますか。

鈴木 ビルの設計業務は多く手掛けており、クライアントから環境対応を求められるケースも増えています。例えば本社の建て替えで先進的なオフィス提案を求められる際に環境配慮や省エネは重要な条件の1つになりますから、それに応えられる設計をしていかなければなりません。

 今回、ZEBの取り組みを体験できたのは会社としても意義深いことで、こうした設計をほかの事例でも展開していきたいと考えています。とはいえ、ZEBはそれ自体が目標となるものではなく、より良いオフィスを実現するための手段の1つです。こうした点を踏まえて、クライアントにとってベストな設計を提案できるようにしていくことが大切です。

左から、プランテック総合計画事務所の鈴木涼チーフアーキテクトと吉松宏樹氏、テラルの今別府眞一ソリューション技術部部長と片山俊樹取締役総務部長、大林ファシリティーズ・テラル管理事務所の行竹優氏(写真:守山 久子)

この記事は、日経 xTECH(クロステック)の「省エネNext」に掲載したものの転載です(本稿の初出:2019年9月25日)。