人口わずか900人、高齢化率53%の長野県根羽村(ねばむら)。そこに東京から移住し、地域おこしに奮闘している若者がいる。「村民をやっています」と自己紹介する、地域プロデューサーの杉山泰彦さんだ。古民家をリノベーションした宿泊施設「まつや邸」を2019年4月から運営し、村役場にも籍を置きながら村のPRやプロモーションなどを担っている。杉山さんはこの小さな村で暮らしながら、どんな挑戦を試みているのか。彼を移住させるほどの根羽村の魅力とは何なのか。杉山さんのお話から探ってみる。

大きな自然と共生している小さな根羽村

 東京から車で約5時間。根羽村は長野県南西部に位置する、総面積8995平方キロメートルの小さな村だ。村の92%が森林だという根羽村の隣には、星空の美しさで有名な阿智村がある。曲がりくねった山道を走り続けて村の中心部に到着すると、そこには林業や農業、川釣りや狩猟など、自然と共生する営みがあった。

 「70代でも河原の岩を軽快に飛び移りながら、ルアーフィッシングであっという間に鮎を100匹も釣ってしまう渓流釣りの名人がいたり、50年以上もトウモロコシをつくり続けているおばあちゃんたちがいたり。根羽村には山村で暮らす技や知恵をもった人がたくさんいます」と杉山さんは語る。

村内には矢作川の源流が流れる

「会社の故郷をつくる」ために根羽村に出合う

 杉山さんが根羽村と出合ったのは2016年。所属していた、東京に拠点をもつ株式会社CRAZYの、とあるプロジェクトがきっかけだった。

 「どうしたらもっと人々が幸せになれるプロジェクトができるのか。それを見つけるため、自分たちでいろいろ試して探るプロジェクトをやっていたんです。あるとき、会社にとっての故郷(ふるさと)をつくろうという話が持ち上がりました。生き方みたいなものが凝縮された場所、たとえば地域の古民家を改修して、社員や仕事で関わったお客さまも使える、都会にない温かさを感じることができるような場所をつくろうと」

 このプロジェクトを一緒に実現してくれそうな自治体を探していたときに、手を挙げてくれたのが根羽村だった。

根羽村役場の中は、ふんだんに木が使われていて、やわらかな空気に満ちていた

 村長との話し合いを経て、当時は空き家だった築130年の古民家「まつや」を紹介してもらった。かつては宿場、タバコ屋、郵便局、住宅など、時代の変化の中で村にとって必要な機能を担ってきた建物だ。ここを、地域の拠点となるような宿泊施設にしようと考えた。

 改修作業はプロの手を借りながらも、ごみの撤去や古材を川で洗ったり、建具を選ぶなど、できるだけ社員や有志が集って行った。完成したのは2018年夏。翌年の春に「自然体になれる村の宿と場」というコンセプトの宿泊施設として「まつや邸」がオープンした。

改築されたまつや邸。木造2階建て。「まつや」とは昔からの屋号
まつや邸の内観。元の梁や昔の名残をなるべく活かしつつ、大きな窓や吹き抜けを設けた開放的な空間だ

村の魅力を知り、つなぎ、発信する拠点に

 「自然の中で生きる知恵を習得して無理なく生きる。ときに趣味も楽しんで。地方にこそ、そういう日本人らしい生き方が存在していると実感しています」と話す杉山さんは、いつか自分もそんな生活をしたいと思い、自ら移住してこの古民家を運営することを決意する。

宿では時間に追われず、ゆったりと過ごしてほしいと語る杉山さん

 自分が触れた村の魅力を、旅で訪れた人にもきちんと味わって帰ってほしい。そんな思いから、まつや邸での宿泊は1日1組の一棟貸し。杉山さん自らが村暮らし体験のガイドを務め、村を体感してもらうようになっている。

1階の土間はイベントスペースとしても利用できる