「まつや邸」は、村の中で⼈と人がつながれる場になることをめざしている。

 「村内で起きていることやそれぞれが考えていることは、意外と村の中の人でも知らなかったりするんです。同時に、村の人々が自分たちの魅⼒を知らないと、活性化のアイデアも出てきません。村内でのできごと、村の外からもらっている評価などを、村⺠たちにも知ってもらうことが⼤切だと思っています」

 そうした思いから、彼は自ら村民になって魅力を一つひとつと体感しながら、他の村民や村外からきた人に魅力を伝えることを心がけている。

 「おばあちゃんたちと⼀緒に五平餅をつくったり、猟師さんと⼀緒に⿅を捕りに⾏ったり。どっぷり都会暮らしだった僕だからこそ感じることができた村の⽇常の“おもしろさ”をコンテンツにしています。根⽻村の⼈たちが当たり前のように思っている⽣活の術が、都会から来た⼈たちには魅⼒的に映る。当たり前のことで喜んでもらえる。そのことが根⽻村の魅⼒に村⺠⾃⾝が気づくいい機会になると思うのです」

村のお母さんたちが楽しそうにテキパキとまつや邸を掃除していく

人口の少ない地域だからこそ新しい手法に挑戦する

 「嫌いな人はいない」という人なつっこい杉山さんでも、やはり、最初はよそ者だ。だから、改築作業の2週間前から一人で村に滞在し、お酒の席など村民の輪の中に入って、とにかくいろんな人にあいさつをしてまわったという。今ではすっかり打ち解けていて、今回の取材中も、まつや邸に訪れる人たちと話し込み、案内してもらった先々の人たちとの間ではいつも笑い声が絶えなかった。

根羽村の人たちには“利他の精神”が根づいていると杉山さんは話す
(左)杉山さんが村の農業を活気づける若手農家として注目する小林智雄さん
(中)小林さんは大学で養液栽培を学び、根羽村に戻ってトマトを栽培している
(右)農園は若者や子育てママの雇用創出に一役買っている
(左)役場の上司と打ち合わせる杉山さん
(右)PR担当として積極的に村の活動をメディアで紹介している

 杉山さんは、株式会社CRAZYから生まれた地域活性化を事業としたグループ会社、株式会社WHEREに籍を置き、総務省が実施している「地域おこし企業人」の制度を使って、根⽻村役場の業務を一緒に担っている。これは、地方公共団体が、民間企業などの社員を一定期間受け入れ、そのノウハウや知見を活かして、 地域独自の魅力や価値の向上につながる業務に従事してもらうプログラムだ。

 たとえば、根羽村では、全国で初めて⾃治体と酪農家が連携して、山で牛を育てる⼭地酪農の導入を進めている。杉⼭さんは、そのように村がチャレンジしているユニークな取り組みが持続的に回るような事業作り、ビジネスモデルの設計を担っている。

 またそれとは別に、村外の企業や個人から持ち込まれるアイデアを村とつなぐスキームを考えたり、移住を考えている⼈からの相談、村役場との橋渡しなど、さまざまな相談に応じている。

 立場というより、全方位的、全人格的に、根羽村の地域プロデューサーとして、まつや邸の運営や役場での役割を両立し、精力的に活動している。それが杉山さんの“村民”としての仕事だ。

 「人口の少ない地域だからこそ新しい手法に挑戦してみるべき。ただそのときに、村が誇ってきたことを失わせないことを⼼がけないといけない。だからこそ、僕は『村民』をやっています。村の人間としての判断を大切にしたいからです。ここが好きで、ここが壊されることが一番嫌ですからね。できないことは断り、できる条件を提案していくことも大切だと思っています」

 地域活性化や地方創生といったことばから洩れていってしまうもの。杉山さんはそれを掬い上げ、森の村に返しているような気がした。

お話を伺った杉山泰彦さん。根羽村役場にて
■プロフィール すぎやま やすひこ
1991年8月25日生まれ。小・中学生時代をアメリカ・シアトルで過ごす。大学卒業後、2014年に株式会社CRAZYに入社。そこから生まれた地方創生事業の株式会社WHEREに2017年より参画。20ほどの地域プロデュースに関わったのち、2018年12月に根羽村へ移住。株式会社WHEREより出向という形で根羽村役場に籍を置き活動している。